知恵蔵 「江戸っ子1号」の解説
江戸っ子1号
「江戸っ子1号」プロジェクト推進委員会は、11年に発足。都内と千葉県の中小企業5社と、二つの大学及び独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が、地元信用金庫の資金的支援を受けて連携し、水深8000メートル以上の日本海溝の探査を目標に、安価で操作しやすい探査ロボットの開発を行う。不況の中、後継者や技術伝承者がなく廃業が増える東京下町の地場産業の活性化を図り、町工場が技術を結集して革新的な新技術を生み出そうとする趣旨が賛同を得て、産学官金連携体制が実現した。
水深6000メートルを超える超深海の調査・研究は、これまでJAMSTECなどが中心となって進めてきたが、探査機等の開発に100億円以上、運用には1回数千万円という費用がかかり、政府機関や学術機関の利用に限られてきた。江戸っ子1号は、開発総額約2000万円という低コストで実現し、1回の実験に必要なコストも数万円から数十万円とされる。
江戸っ子1号の基本構造は、800気圧に耐える真円のガラス球を複数つなぎ合わせ、内部に3Dのビデオカメラや照明器具、通信機器などの装置を組み込んでいる。ガラス球同士の通信には、海水中でも電波を通すことのできる特殊なゴム製の器具を用いている。潜水時は錘をつけて自由落下し、浮上時は支援船から音波で送った信号を電気信号に変えて錘を切り離し、ガラス球が受ける浮力で浮かび上がる。高圧に耐える強度を持ちながら、内部のカメラで歪みのない映像を撮影できるガラス球の制作など、随所に町工場の高い技術が使われている。
江戸っ子1号は3台あり、11月21日から23日にかけて、千葉県房総半島沖約200キロメートルで、それぞれ水深4090メートル、7860メートル、7816メートルの海底に投下され、3台とも24日に浮上・回収に成功した。
(葛西奈津子 フリーランスライター / 2013年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報