泥・滞(読み)なずむ

精選版 日本国語大辞典 「泥・滞」の意味・読み・例文・類語

なず・む なづむ【泥・滞】

〘自マ四〙
① 人馬や舟などが前へ進もうとしても、なかなか進めないでいる。進まないで難渋する。
古事記(712)中・歌謡「浅小竹原(あさじのはら) 腰那豆牟(ナヅム) 空は行かず 足よ行くな」
※土左(935頃)承平五年二月七日「きときてはかはのぼりぢのみづをあさみふねもわがみもなつむけふかな」
太平記(14C後)四「馬は雪に泥(ナヅン)で懸引も自在ならず」
② 物事がなかなかうまく進行しなくなる。
蜻蛉(974頃)中「水まかせなどせさせしかど、色づける葉のなづみてたてるをみれば」
咄本醒睡笑(1628)六「食、胸になづんで苦しむには、大根をおろしその汁を飲めば胸くつろぐといふ」
③ しようとしていることが、うまくいかずに思い悩む。思い煩う。
源氏(1001‐14頃)横笛「まことに、此君、なづみて、泣きむつかり、あかし給つ」
④ ある物事に関わり続ける。こだわる。執着する。
万葉(8C後)一〇・二一二三「大夫(ますらを)の心は無くて秋萩の恋のみにやも奈積(ナづみ)てありなむ」
徒然草(1331頃)一一五「死を軽くして、少しもなつまざるかたのいさぎよく覚えて」
⑤ ひたむきに思いを寄せる。執心する。惚れる。
※評判記・役者評判蚰蜒(1674)伊藤小太夫「こちのこうのうんざいらが、よけいもないむねの中へさへとつかとなづんで、うごきがとれず」
※歌舞伎・韓人漢文手管始(唐人殺し)(1789)一「夜毎夜毎に丸山の廓へお通ひ有て、名山とやら申傾城になづみ給ひ」
⑥ なれ親しむ。なじむ。
※歌舞伎・当龝八幡祭(1810)序幕「手飼ひの狆も此やうに、主をば知って馴れなつみ」
※黴(1911)〈徳田秋声〉三三「進行するにつれて原文に昵(ナヅ)んでも来たし」
[語誌](1)②の用法は、現在では「暮れなずむ」のような複合動詞の中にのみ生きている。
(2)④の「執着する」の意の中から、⑤の意が生じたのは近世で、それとの意味の近さ、また「なじむ」との音の類似から、幕末には⑥の意も生じた。

なずみ なづみ【泥・滞】

〘名〙 (動詞「なずむ(泥)」の連用形名詞化) 恋いこがれること。執心すること。
浮世草子好色一代女(1686)一「世には悩(ナヅミ)の深き調謔(たはぶれ)もあるに」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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