消化管腫瘍に対する治療

内科学 第10版 「消化管腫瘍に対する治療」の解説

消化管腫瘍に対する治療(内視鏡的インターベンション)

(1)消化管腫瘍に対する治療
 内視鏡的治療は管腔内からの局所治療であるため,リンパ節転移のない病変が治療の対象となる.しかし現時点では,完璧な術前診断は不可能であるため,治療後に病理組織学的に腫瘍の進達度や脈管侵襲の有無などを確認し,腫瘍の悪性度や治療の根治性を評価しなければならない.したがって,切除した組織を回収し病理学的に評価することが可能な,内視鏡的切除が治療の基本となる.切除法には,大きく分けてポリペクトミーや内視鏡的粘膜切除術,内視鏡的粘膜下層剥離術などがあり,病変の状況に応じて使い分けられている.一方で,これらの切除法は多少なりとも出血穿孔のリスクを伴い,場合によっては処置に多くの時間を必要とするため,状態の悪い患者やリスクの高い患者では治療しづらい場合もある.そのような場合には組織破壊法が用いられるが,組織学的評価が不可能なうえ,焼灼にムラが生ずるため,治療の確実性が低下してしまう点が問題である.
a. 内視鏡的切除法
 ⅰ)ポリペクトミー
 有茎性あるいは亜有茎性ポリープに対して,スネアとよばれるループ状のワイヤをかけて通電しながら切除する手技である.比較的容易な手技であるが,切除可能な大きさや形が限られている.
 ⅱ)内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal rese­ction:EMR)
 ポリペクトミーと同様にスネアを使用して切除するが,平坦な病変やより大型の病変でも切除できるよう工夫がなされている.治療時には,生理食塩水などを粘膜下層に局注して病変部を隆起させてから,病変部を把持鉗子で牽引(strip biopsy)したりフード内に吸引EMRC)して,スネアをかけて切除する方法や,エピネフリンを添加した高張食塩水(HSE)を局注した後に,針状メスで病変の周囲を全周性に切開してからスネアをかけて切除する方法(ERHSE)などが報告されている.EMRは早期胃癌の治療手技として普及したが,スネアをかけて切除するため治療可能な大きさに制限があり,胃癌治療ガイドラインでは2 cmまでの病変がEMRの適応とされている(日本胃癌学会編,2010).
 ⅲ)内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection:ESD)
 局注後に病変周囲の粘膜を切開し,その後さらに病変下部の粘膜下組織を剥離して,スネアを掛けずに切除する新しい治療手技である(図8-1-21).当然,治療時には出血や穿孔のリスクを伴うが,局注液やナイフ類を工夫することにより安全性を確保している.この手技の登場により切除可能な大きさに事実上制限がなくなり,また潰瘍瘢痕を伴うような病変でも,瘢痕部を剥離して切除することが可能となった.リンパ節転移のリスクに関しては,日本胃癌学会などの検討により明らかになってきており,従来の適応基準をこえた大型の病変や,潰瘍瘢痕を伴う病変などに対して,臨床試験的な治療がなされている(日本胃癌学会,2010).これらの適応拡大病変に対する内視鏡治療に関しては,まだ長期予後のデータがないため,今後のデータ集積が待たれる.しかしESDの手技そのものは胃のみならず,食道大腸でも普及し,2006年度より胃癌,2008年度より食道癌,2012年度より大腸癌に対し保険適用となった.
b. 組織破壊法
 レーザーやヒータープローブ,アルゴンプラズマ凝固(argon plasma coagulation:APC)などを用いて,腫瘍組織を焼灼して破壊する方法である.組織学的評価が得られないというデメリットはあるが,より低侵襲で短時間での治療が可能であるというメリットがある.内視鏡的切除後に局所遺残が疑われる場合の追加治療や,状態があまりよくない患者に対する姑息的治療法として使用されることが多い.[矢作直久]
■文献
日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン(医師用),2010年10月改訂第3版,金原出版,東京,2010.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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