日本大百科全書(ニッポニカ) 「源五郎の天昇り」の意味・わかりやすい解説
源五郎の天昇り
げんごろうのてんのぼり
昔話。途方もない空想的な誇張を主題にした笑話の一つ。男が豆の種を播(ま)くと、天まで届く大木になる。男はそれを登って天に行く。雷に会い、雨を降らせる手伝いをさせられる。あるとき雲を踏み外して落ちる。九州には、結末が琵琶(びわ)湖の源五郎鮒(ぶな)の由来譚(たん)になっている例がある。主人公の源五郎が、雨を降らせすぎてできた琵琶湖に落ちて、鮒になったという。海に落ちて竜宮へ行ったと結ぶものや、桑畑に落ちたとして、雷のときに桑の小枝を軒先に挿す由来を説くものもある。気がつくと夢だったと「油取り」のように夢語りの形式をとる話もある。発端を、桶(おけ)屋がたがにはじかれてとか、傘屋が傘を持ったまま飛ばされてとかする話が多い。桶屋や傘屋など竹細工職人がこの昔話の語り手であった名残(なごり)であろう。たがにはじかれる趣向は、黄表紙の『啌多雁取帳(うそしっかりがんとりちょう)』(1783)にもみえる。握った鰻(うなぎ)が逃げるのを追って天に昇る話は『軽口花咲顔(かるくちはなのえがお)』(1747)にあり、それと雷の弟子になって雲から落ちる話を続けて演ずる落語に「鰻の天上(てんのぼり)」「月宮殿星の都」がある。大木を登って天に行く話はヨーロッパに広く分布し、細かい要素も外国に共通する部分が少なくない。
[小島瓔]