溺れる者は藁をも摑む(読み)おぼれるものはわらをもつかむ

ことわざを知る辞典 「溺れる者は藁をも摑む」の解説

溺れる者は藁をも摑む

窮地におちいった者が、なんとか逃れようとして、とうてい頼りにならないものにまですがろうとするたとえ。

[使用例] しかもその卑怯極まる彼の行動しうち主人あるじ夫婦も十分承知して居ると云うではないか、知って而して執事地位を与えたものとすれば、之も頼りなさの苦しみから一時の杖としたものに相違ない、に溺るる者は藁をもつかむとやら[田口掬汀*女夫波|1904]

[使用例] 満洲では紙屑同様でもロシア側に処分出来れば二割の手数料を支払うというのである。私はそんなことが出来るかどうか見当もつかなかったが、溺れるものは藁をも摑むとはこのことであろう、やってみる気になった[石光真清*望郷の歌|1958]

[解説] 明治後期から使われるようになった表現で、文語では「溺るる者は藁をも摑む」といいました。いまでは完全に定着していますが、元来は西洋のことわざで、英語でA drowning man will catch at a straw.といい、ヨーロッパの他の言語にも類似の表現が認められます。
 明治一〇年には「水に溺れんとするときは蘆の葉にもすがらんとす」と訳され、原文にない「水に」が補われていました。酒や女に「溺れる」という比喩的用法が先にあったせいでしょう。西洋のことわざとして紹介されても、当初はなかなかひろまりませんでした。その後、明治三〇年代になると、徳富蘆花などの新聞小説に相次いで登場し、しだいに現在の形で浸透していきます。その背後には、明治二〇年代の海水浴流行があり、かつては武術だった水泳を一般の人びとが楽しむようになっていました。海水浴場では、泳げない者が何かにすがりつく光景が珍しくなくなり、ことわざも理解しやすくなったのです。

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