片敷く(読み)カタシク

デジタル大辞泉 「片敷く」の意味・読み・例文・類語

かた‐し・く【片敷く】

[動カ四]《昔、男女共寝をするときには、互い衣服を敷き交わして寝たことに対していう》自分の衣服だけを敷いて、独り寂しく寝る。
狭筵さむしろに衣―・き今宵もや我を待つらむ宇治橋姫」〈古今・恋四〉

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精選版 日本国語大辞典 「片敷く」の意味・読み・例文・類語

かた‐し・く【片敷】

  1. [ 1 ] 〘 他動詞 カ行四段活用 〙
    1. 寝るために自分ひとりの着物を敷く。独り寝をする。古く、男女が共寝するとき、互いの着物の袖を敷きかわして寝たところからいう。
      1. [初出の実例]「吾が恋ふる妹はあはさず玉の浦に衣片敷(かたしき)ひとりかも寝む」(出典万葉集(8C後)九・一六九二)
      2. 「さむしろに衣かたしきこよひもや我をまつ覧宇治の橋姫〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋四・六八九)
    2. ( 「かた」が接頭語的に用いられて ) 敷く。寝るために着物などを敷く。
      1. [初出の実例]「天飛ぶや 領巾(ひれ)可多思吉(カタシキ)玉手の 玉手さしかへ あまた夜も いも寝てしかも」(出典:万葉集(8C後)八・一五二〇)
    3. 腕や肘(ひじ)を枕にして独り寝する。
      1. [初出の実例]「よるになれども装束もくつろげ給はず、袖をかたしゐてふし給ひたりけるが」(出典:平家物語(13C前)一一)
  2. [ 2 ] 〘 自動詞 カ行四段活用 〙
    1. 傾く。かたよる。
      1. [初出の実例]「ふる雪に軒ばかたしくみ山木のおくる梢にあらしふくなり」(出典:寂蓮集(1182‐1202頃))
    2. 一方にのびひろがる。
      1. [初出の実例]「庭には葎(むぐら)片敷(カタシキ)て、心の儘に荒たる籬(まがき)は、しげき野辺よりも猶乱」(出典:源平盛衰記(14C前)四八)

片敷くの語誌

「万葉集」に詠まれ、平安時代には「古今‐恋四」以来、歌語として盛んに用いられた。袖・衣を片敷くと詠む例が多いが、「新古今集」の頃から、旅寝の歌などで、伊勢の浜荻・草葉・露・真菅岩根・紅葉などをかたしくという表現が目立ちはじめ、さらに「新古今‐秋上」の「さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかたしく宇治の橋姫〈藤原定家〉」をはじめとして、の独り寝をする意で、涙・夢・嵐・波・雲・風・梅の匂などをかたしくといった感覚的な表現が出現する。

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