橋姫(読み)ハシヒメ

デジタル大辞泉 「橋姫」の意味・読み・例文・類語

はし‐ひめ【橋姫】

橋を守るという女神。特に山城宇治の橋姫有名
源氏物語第45巻の巻名。薫大将、20歳から22歳出家を志す薫が宇治の八の宮を訪ね、二人姫君に心を動かされること、自分出生の秘密を知ることなどを描く。

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精選版 日本国語大辞典 「橋姫」の意味・読み・例文・類語

はし‐ひめ【橋姫】

  1. ( 古くは「はしびめ」とも )
  2. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 橋を守る女神。特に、京都府宇治市の宇治橋にいる女神を宇治の橋姫といいならわした。
      1. [初出の実例]「さむしろに衣かたしき今宵もやわれを待つらむ宇治の橋姫〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋四・六八九)
    2. 江戸時代、橋のたもとに立つ街娼や、その近くの茶屋の私娼などをいう。
      1. [初出の実例]「橋姫や不男等にもさねかづら」(出典:俳諧・水馴棹(1705))
  3. [ 2 ] 「源氏物語」第四五帖の巻名。薫二〇歳から二二歳の一〇月まで。薫は出家を思う心から宇治に隠棲する八の宮を訪ね、大君と中君を知り、山荘の模様を匂宮に語る。また、大君に仕える弁のおもとから、自分の出生の秘密を知らされる。宇治十帖の第一。

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改訂新版 世界大百科事典 「橋姫」の意味・わかりやすい解説

橋姫 (はしひめ)

橋のたもとに橋姫とか橋姫明神とかいって,橋の神霊がまつられることが多い。山城の宇治の橋姫や摂津の長柄(ながえ)の橋姫は有名だが,京都の五条橋(今の松原橋)や近江の瀬田橋のたもとにも橋姫がまつられていた。橋姫は,宇治の橋姫のように,嫉妬深い鬼神とされる場合が多い。瀬田橋の付近でも鬼女が人々を悩ましたとする説話が《今昔物語集》などにもあって,これも橋姫であろうと考えられている。諸国の伝説でも橋姫のねたみを恐れて嫁入りの行列が通るのを忌む橋があり,橋の近くで赤子を抱いた女性にあって,頼まれてその赤子を抱くと急に重くなったというものがある。柳田国男によると,橋に神をまつるのは,境としての橋に外部から侵入する邪悪な神霊などを防ぐためで,もとは道祖神と同様に,男女二神をまつったものとされる。それが男女であったために安産小児の健康を祈る神ともされ,母子神信仰のような形態の伝説が生まれ,一方で神の威力を意味したネタミが,嫉妬の意味に限定され,嫉妬深い鬼女の伝説ともなったとされる。さらに長柄の橋姫のように,橋を造る時の人柱(ひとばしら)を橋姫としてまつるとする伝説もある。これらの伝説は水辺の祭りをつかさどった巫女たちによって管理され伝播されたのではないかと考えられている。

古今和歌集》に〈さむしろに衣かたしき今宵もや我をまつらむ宇治の橋姫〉〈千早ふる宇治の橋姫なれをしぞあはれとは思ふ年のへぬれば〉の2首が収められていて,歌学書や《古今集》の古注にさまざまな伝説が記されている。住吉明神が宇治の橋姫と津の国の浜で契って,宇治に行く約束をするが,その約束を果たさなかったので,橋姫が〈さむしろに〉の歌を詠んだとか,宇治の離宮明神が橋姫と毎夜契ったが,明け方になると川波が荒れたとか伝える。《奥儀抄》巻六などには橋姫のこととして次のような物語を記している。

 むかし,2人の妻を持った男がいて,ひとりがつわりに7いろ(尋か)の和布(わかめ)をほしがったので,男が海辺に探しに行くと,そのまま男は竜王にとられてしまう。その妻は男を尋ね歩くが,ある夜,浜辺の庵で偶然男とあうが,明けるとあとかたもなく消えうせていた。家に帰った妻は,もうひとりの妻にこのことを語ると,その女も浜辺の庵に行き,男にあうが,嫉妬して男に打ちかかると,男も家もあとかたもなく消えうせたという。この物語は脚色されて《橋姫物語》と題する絵巻としても伝わっている。《今古為家抄》などには,嵯峨天皇のとき,ひとりの女が嫉妬から夫に捨てられ,宇治川の水に髪をひたして,鬼になるよう祈り,ついに鬼女となったと伝える。これと同様の説話は屋代本《平家物語》剣巻に見られ,貴船明神に祈り,その告げに従って宇治川に浸って生きながら鬼女となる。これが羅生門の鬼で,後に渡辺綱に腕を切られたことになっている。貴船明神への参詣にあたって,橋姫が頭に鉄輪をのせる話があって,謡曲《鉄輪》とのつながりが暗示されている。《曾我物語》巻八にも姫切という名剣にまつわってこの異伝を収めている。また橋姫は嫉妬深いので,嫁入りのとき,宇治橋を渡ってはならないなどとも伝えられる(《出来斎京土産》など)。

摂津西成郡の長柄橋の神霊で,人柱伝説として伝えられる。《神道集》巻七に〈橋姫明神事〉として収められているのが古い。長柄川に橋をかけようとするが何度も失敗し,人柱を立てることになった。そのとき,ひとりの男が幼児を負った妻と連れ立って来て,橋の材木の上で休む。男は,人柱に立てるのなら,袴の破れを白布で縫いはぎした者を選ぶとよいとをいうと,橋奉行はそれならおまえ以外にないといって,その男を人柱に立てる。妻は悲しんで〈物いへば長柄の橋の橋柱泣ずはのとられざらまし〉という歌を詠んで幼児を負いながら河に身を投げ,橋姫となったという。この話は近世になると広く流布して,小異を含みながら諸書に見られるようになる。提案した当の本人が人柱に立てられた話は,《神道集》の歌と類似の歌や〈も鳴かずば打たれまい〉(口はわざわいのもとの意)ということわざと結びついて諸国の人柱伝説ともなっている。人柱となるのは日本の北と南では女あるいは母子だが,中央部では男で,六部,巡礼,盲僧,塩売,椀売などとなり,これらの遍歴の人々によって伝播されたのではないかと考えられている。
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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「橋姫」の解説

橋姫 はしひめ

伝説上の神。
橋をまもるため,橋のたもとにまつられた。宇治の橋姫や摂津西成郡(大阪府)の長柄(ながら)の橋姫が知られている。嫉妬(しつと)ぶかい鬼神とされる場合がおおい。

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デジタル大辞泉プラス 「橋姫」の解説

橋姫

村上草彦による詩集。1973年刊行(木犀書房)。1974年、第7回日本詩人クラブ賞を受賞。

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世界大百科事典(旧版)内の橋姫の言及

【鬼】より

…恨みを晴らすために人に憑(つ)く生霊や死霊は普通は目に見えないが,鬼と同一視された。神仏に祈願して肉体を鬼に変えて恨みを晴らす《平家物語》剣の巻の宇治の橋姫も,この種の鬼である。いま一つの契機は年を取り過ぎることである。…

【能面】より

…ほかに阿形では天神,黒髭(くろひげ),顰(しかみ),獅子口など,吽形では熊坂(くまさか)がある。能面の鬼類では女性に属する蛇や般若,橋姫,山姥(やまんば)などのあることが特筆される。(3)は年齢や霊的な表現の濃淡で区別される。…

※「橋姫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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