改訂新版 世界大百科事典 「犯罪人名簿」の意味・わかりやすい解説
犯罪人名簿 (はんざいにんめいぼ)
前科のある者は各種資格を制限される場合があり,そのため前科を的確に把握できるように,前科のある者の戸籍を管掌する市区町村で保管される帳簿。もっぱら裁判および検察事務の適正な運営のために使われる犯歴票(本籍地の検察庁に保管される)と並ぶ前科登録制度の一つである。1872年(明治5)の太政官布告による戸籍表への犯罪事項の記録を起源とする。82年には裁判結果の戸長役場への通知が制度化され,そのための既決犯罪表写しをとじたものが,犯罪人名簿として,徴兵調査や,選挙人資格調査,さらには官公署や個人に対する身分証明に使われてきた。第2次大戦後は基本的人権との抵触から,身元保証のための使用には強い制約が加えられたが,明文で義務づけられている選挙資格に関する事務のほか,資格調査の照会にも一部こたえており,これに対しては反対もある。登録は罰金刑以上に限られており,資格制限にかかわらない少年の場合や,1962年以後は道路交通法違反の罰金も除かれている。刑の消滅や恩赦などで資格制限がなくなれば,犯罪人名簿上の前科もすみやかに抹消される。
執筆者:吉岡 一男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報