以前に刑罰を科されたことをさすが,このことが法律上一定の効果をもつ場合がある。その場合の要件(具体的な前科内容)は種々であり,例えば,前に禁錮以上の刑に処せられた者は,刑の執行猶予の対象からは,原則として除かれる(刑法25条)。また,懲役に処せられた者が,執行終了(ないし免除)後5年以内にさらに罪を犯して有期懲役に処せられるときは累犯加重される(56条以下)。その他,前科者に対する資格制限規定が,選挙犯罪者の公民権停止や,許可免許の欠格事由,公務員等の就職禁止などとして,各種の法令中に200ほど存在し,中には,裁判官,検察官,弁護士などのように(この場合は禁錮以上の)前科者を一生涯排除する規定形式のものもある。このような制限の合理性・妥当性には批判もあり,刑の消滅の規定が,戦前からの諸提案を経て,1947年の刑法改正で実現した(34条の2)。すなわち,禁錮以上の刑は,執行終了(ないし免除)後10年間,罰金以下は5年間,刑の免除は2年間,罰金以上の刑に処せられなければ刑の言渡しが失効し,前科の事実はなくなる。同様の効果は,復権などの恩赦によっても得られるが,これらの場合は,犯罪人名簿における前科登録も抹消される。
日常用語としての前科は,過去の悪行から刑務所収容経験まで広狭種々に使われる。それに応じて人々の前科者への対応・差別の状況も種々であるが,その実態の究明や理論化は,偏見の心理学,スティグマ・逸脱の社会学などの研究課題ともなっている。
執筆者:吉岡 一男
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有罪の確定判決により、刑に処せられたこと。一般に「前科」とか「前科者」ということばが用いられるが、これにはかならずしも法令上の根拠があるわけではない。ただ、行政、とくに法務関係の実務において、慣行上、前科者、とくに罰金以上の刑に処せられた者の氏名等が名簿に記載されている。これには次の3種がある。すなわち、(1)選挙権・被選挙権に関する選挙人名簿を作成したり、特定の職業につく場合の欠格事由の有無を確かめるために、市区町村は犯罪人名簿を保管している。(2)刑の執行猶予の言渡しや累犯加重など、刑事裁判や刑の執行における必要から、検察庁、法務省矯正局は前科の登録を行っている。(3)犯罪捜査の便宜から、警察庁は前科者の指紋カードを作成し、保管している。このような前科者の名簿は非公開とされていることはいうまでもない。
なお、前科に伴う不利益を救済するために、現行法には刑の言渡しの効力を消滅させる制度があり、これによって前科の抹消が行われる。すなわち、禁錮以上の刑は執行終了または免除後10年間、罰金以下の場合は同じく5年間、刑の免除は言渡し確定後2年間、罰金以上の刑に処せられなければ、刑の言渡しが失効して前科の事実はなくなる(刑法34条の二)。また、刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過した場合(同法27条)や、恩赦による復権(恩赦法10条)も同様に犯罪人名簿の前科登録が抹消される。
[名和鐵郎]
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