企業(経済主体)の経済活動(取引)を主として貨幣金額によって継続的,秩序的に記録する手段(紙葉,カード,テープなど)をいう。帳簿は継続企業(ゴーイング・コンサーン)を前提とするかぎり継続性を要件とするから,備忘または伝達のために記録された紙片は帳簿となりえないが,それらが伝票として継続的に使用され,しかも秩序正しく整理されていれば,帳簿となりうる。企業と取引相手方との関係で作成され,手交される証憑(しようひよう)書類(注文書,送状,納品書,領収書など)およびその複写は,本来帳簿記録の基礎となるものであり,法的証拠力が最も高いものであるが,これらの証憑書類も,記帳手続の合理化という観点から秩序整然と継続的にファイルしていけば,帳簿に流用することができる。
商法上,商業帳簿は〈営業上ノ財産及損益ノ状況ヲ明ラカニスル為〉のもので,会計帳簿と貸借対照表をいう(商法32条1項)。しかし貸借対照表は,会計上,財務諸表(商法上は計算書類)の一つで,財務諸表が帳簿であるか否かは議論のあるところであるが,報告書であり,帳簿とみないのがむしろ普通である。帳簿記録は財務諸表作成の基礎資料となるものだからである。したがって帳簿といえば会計帳簿をさすのが普通である。会計記録の目的は,内部管理会計上は財産・損益管理の資料,外部報告会計上は経営成績や財政状態を報告するための財務諸表作成の基礎資料を提供することにある。会計記録の目的を有効に達成するために帳簿を有機的に関連させたものを帳簿組織という。帳簿組織上,帳簿は主要簿と補助簿とに分類される。
主要簿とは会計の具体的実践用具である複式簿記の機構上不可欠の帳簿をいう。複式簿記では仕訳帳によって取引発生順の記録を完成し,元帳記入の基礎資料とし,元帳においては勘定科目別の増減変動記録を行い,内部管理上の資料および財務諸表作成の基礎資料を完成する。取引発生順の記録は企業の経済活動の歴史的記録であり,よって仕訳帳の記録は経済活動の縦の記録であるのに対して,元帳の記録は計算単位別の横の記録である。複式簿記の基本的帳簿組織は単一仕訳帳・元帳制であるといわれるが,これは,企業の経済活動の経緯はこの縦・横の記録によって初めて正確に把握することができるからであり,仕訳帳,元帳が複式簿記の機構上不可欠の帳簿であることを端的に物語っている。
この場合,帳簿は主要簿のみであり,補助簿は存在しないから,主要簿,補助簿の分類も生じない。もっとも世界最古の複式簿記といわれるイタリア式簿記法では,仕訳帳の記録をする前に,日記帳を原始記入簿として使用した。日記帳の記録は,取引の言葉による叙述にすぎず,勘定科目と貸借記入原則による記録でないので,簿記,会計上の帳簿であるか疑問であるが,仕訳帳に小書きとしてその面影を残すのみで,日記帳そのものを使用しない現在,この議論も消失した。
主要簿に対して補助簿とは,複式簿記の機構上は必須ではないが,複式簿記を実施する企業の管理目的上必要に応じて設ける帳簿をいう。補助簿は記入手続的に原始記入簿に相当する補助記入帳と,転記簿に相当する補助元帳の2種類から成っている。補助記入帳は特定取引についての明細記録簿であり,たとえば現金出納帳,仕入帳は,現金収支取引,仕入れ・戻し取引についての明細を示す帳簿である。補助記入帳としてこのほかに,小口現金支払帳,当座預金出納帳,売上帳,受取手形記入帳,支払手形記入帳などが利用される。補助元帳は特定勘定についての明細記録簿であり,たとえば得意先元帳,仕入先元帳は,売掛金勘定,買掛金勘定の明細を示す帳簿である。補助元帳としてこのほかに,固定資産台帳(備品台帳,機械台帳,土地台帳など),原材料有高帳,商品有高帳,製品有高帳,販売費元帳,一般管理費元帳,工場経費元帳などが利用される。なお補助元帳を設けるとき,従前の元帳を総勘定元帳とか一般元帳と呼び両者を区別する。
帳簿組織は,記録目的,業種,企業規模,記帳の合理化等によっていろいろの形態をもつことになる。たとえば記帳の合理化により,補助記入帳を仕訳帳として利用するとき,補助記入帳はもはや補助簿ではなくなり,主要簿となる。主要簿化した補助記入帳のことを特殊仕訳帳,従前の仕訳帳を普通仕訳帳と呼んで区別する。たとえば現金出納帳を特殊仕訳帳として利用するとき,現金出納帳へ記録した現金収支取引については普通仕訳帳への記録は不必要となり,親勘定である現金勘定には定期的に合計転記をすることになるので転記業務も合理化することができる。
→簿記
執筆者:大藪 俊哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ある経済主体の経済活動について、記録・計算・表示するための媒体。とくに企業会計の基礎となる複式簿記では、記録対象となる経済活動や経済事象は取引とよばれ、帳簿への記録は貨幣数値(金額)により行われるが、補足的に物量数値が用いられることもある。取引について記録するための基本的単位となる項目(現金、借入金、仕入、売上など)を勘定とよび、取引による各勘定の金額の増減を左右(借方・貸方)に分けて記録する方法を仕訳とよぶ。勘定記録をもとに決算が行われ、貸借対照表、損益計算書という会計報告書が作成されることになる。
複式簿記では、日々の取引についての仕訳は仕訳帳に記録され、総勘定元帳に納められた各勘定科目に転記される。仕訳帳からは取引の履歴を、総勘定元帳からは期中の各勘定の金額増減と残高を確認できる。企業会計で使用される帳簿の種類は多岐にわたるが、複式簿記の記録に必要不可欠となる仕訳帳と総勘定元帳を主要簿とよび、主要簿の記録内容を補足するために設けられるその他の帳簿を補助簿とよぶ。補助簿は、さらに補助記入帳と補助元帳に分類される。補助記入帳とは現金出納帳や売上帳、仕入帳といった仕訳帳から分化して取引発生順の明細を示すものであり、補助元帳とは商品有高帳や仕入先(買掛金)元帳、得意先(売掛金)元帳といった特定の勘定科目の明細を示すものである。たとえば、現金出納帳を設ければ現金収入・支出の生じた日付と原因の詳細を確認でき、商品有高帳を設ければ商品の受入れ、払出しと在庫について金額のみならず物量的情報もあわせて管理することができる。
歴史的に複式簿記は、綴込(とじこみ)帳簿、紙片帳簿(ルーズリーフ型帳簿など)といった紙媒体による記録を前提としてきたが、現代では情報技術の発展に伴って電磁的媒体による電子帳簿が一般化している。日本では法務省令である会社計算規則が、会計帳簿は書面か電磁的記録で作成しなければならないことを定めている。2022年(令和4)に改正された国税に関する電子帳簿保存法(平成10年法律第25号)では、帳簿の電子保存について税務署長による事前承認制度の廃止、請求書・領収書などをスキャナー保存したデータなどについて検索機能を確保する要件を取引年月日・取引金額・取引先の3項目に限定するなどの規制の緩和が図られ、企業でのペーパーレス化のさらなる進展が予想される。なお帳簿を電子保存する媒体は、記録計算を行う組織内の磁気テープ、ハードディスクなどに限られず、クラウドサービスの利用による外部サーバーなど、当該組織の外部に存在する記録媒体に帳簿が設けられることもある。
[田中 圭 2023年1月19日]
『神戸大学会計学研究室編『会計学辞典』第6版(2007・同文舘出版)』▽『安平昭二著『簿記要論』6訂版(2007・同文舘出版)』▽『武田隆二著『簿記一般教程』第7版(2008・中央経済社)』▽『中村忠著『新訂 現代簿記』第5版(2008・白桃書房)』
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…これは古くより広く行われた分類法であるが,それを発展させたものとして(3)公文書,準公文書,武家文書,荘園関係文書,私文書という分類法もある。また(4)時代によって古代の文書,中世の文書,近世の文書と分けることも行われるが,(5)古文書の時代的変遷とその様式の変化に重点を置いて,政治的文書を公式(くしき)様文書,公家様文書,武家様文書と分け,それ以外の非政治的な文書を上申文書,証文類,帳簿類と分けることがある。しかし公家様,武家様というのは発給者別の分類で,厳密には様式分類とはいいがたい。…
※「帳簿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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