猿橋賞(読み)サルハシショウ

デジタル大辞泉 「猿橋賞」の意味・読み・例文・類語

さるはし‐しょう〔‐シヤウ〕【猿橋賞】

すぐれた女性科学者に与えられる賞。猿橋勝子により創設。「女性科学者に明るい未来をの会」が年に一度、自然科学分野において顕著な業績を収めた女性科学者に授与する。第1回は昭和56年(1981)で、受賞者は太田朋子

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「猿橋賞」の意味・わかりやすい解説

猿橋賞
さるはししょう

自然科学分野で顕著な実績を収めた女性科学者に贈られる賞。対象は50歳未満に限られ、毎年、学会などの他薦自薦によって候補者を募り、そのなかから選出した1件(1名)に副賞の30万円とともに授賞する。1981年(昭和56)に創設され、「女性科学者に明るい未来をの会」が運営している。

 創設者の猿橋勝子(1920―2007)は女性科学者の草分けで、女性初の日本学術会議会員である。専攻は地球科学で、中央気象台(現、気象庁)に勤務し、1954年(昭和29)に行われたビキニ環礁での水爆実験で被曝(ひばく)した第五福竜丸船員の汚染調査や大気海洋汚染を研究し、国際的な評価を得たことで知られている。賞は猿橋が気象研究所退官したことを記念し、日本の女性科学者の地位向上や自然科学分野における活躍を願うものとして設けられた。

 第1回(1981)受賞者は、国立遺伝学研究所研究室長の太田朋子(おおたともこ)(1933― )で、「分子レベルにおける集団遺伝学の理論的研究」が評価された。33回目となった2013年(平成25)は、理化学研究所仁科(にしな)加速器研究センター准主任研究員の肥山詠美子(ひやまえみこ)(1971― )が「量子少数多体系の精密計算法の確立とその展開」で受賞した。

[編集部]

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知恵蔵 「猿橋賞」の解説

猿橋賞

地球化学者の猿橋勝子(1920~2007)が創設した「女性科学者に明るい未来をの会」が、自然科学の諸分野で顕著な研究業績を収めた50歳未満の女性科学者に贈る賞。1981年第1回授賞以来、毎年1名に授与されている。
歴代の授賞分野は、化学、物理学、生物学、医学、数学など多岐にわたる。2009年は塩見美喜子(慶應義塾大学医学部 総合医科学研究センター准教授)が受賞した。授賞テーマは、「RNAサイレンシング作用機序の研究」。細胞内にあるリボ核酸(RNA)が、病気や細胞死の原因となる遺伝子の働きを抑えるしくみを分子レベルで明らかにした。
中央気象台(56年より気象庁に昇格)気象研究所研究官であった猿橋勝子は、退官の際(80年)、自身の退職金や、退官記念パーティーに集まった人たちからの拠金を基に、自然科学分野の研究に従事する女性科学者の奨励と、その地位向上を目指して「女性科学者に明るい未来をの会」を創設した。後に同会を母体として「女性自然科学者研究支援基金」が設立され、猿橋賞受賞者に賞金を贈呈している。
猿橋勝子自身の研究テーマは海水の化学的性質の解明で、中でも、ビキニ環礁での米国による水爆実験(1954年)で第五福竜丸の船員が被ばくした「ビキニ事件」の際、「死の灰」による大気・海洋汚染調査に携わったことをきっかけに、大気・海洋での放射能物質拡散の研究において大きな業績をおさめ、世界的な評価を得た。57年、理学博士(東京大学)。
猿橋賞受賞者からは、黒田玲子(当時東京大学教養学部教授、現在は同大学大学院総合文化研究科教授、平成21年度文部科学大臣表彰科学技術賞)、米沢富美子(当時慶應義塾大学教授、現在は同大学名誉教授、元日本物理学会会長)など、その後、各学会をリードする人材を輩出している。

(葛西奈津子 フリーランスライター / 2009年)

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