日本大百科全書(ニッポニカ) 「海洋汚染」の意味・わかりやすい解説
海洋汚染
かいようおせん
marine pollution
人間活動によって直接あるいは間接に、海洋環境に持ち込まれた物質あるいはエネルギーが、生物資源、人間の健康および水産漁業などの活動に有害な影響を及ぼし、また海水の本来の性質や海洋環境の快適さを損なう場合を海洋の汚染という。これは海洋汚染にかかわる国連関係機関合同の、海洋環境保護の科学的事項に関する専門家合同グループGESAMP(The Joint Group of Experts on the Scientific Aspects of Marine Environmental Protection)によって定義されたものである。これらの原因となるものが汚染物質である。洋上で直接船舶等から放出されるもののほかに、陸上で環境に人為的に放出された汚染物質には、大気中に拡散するもの、さらに大気により外洋に運ばれるもの、地下水、河川水などで河口域、内湾、内海に移送され、沿岸海域を経て外洋にまで達するものがある。地球全表面の約4分の3の大きな面積を占める海洋の汚染は、陸上起源によるものが船舶起源よりはるかに大きくて、海洋汚染全体の約80%を占めている。最近になって新しいタイプの陸起源の汚染が海洋環境の生物資源や生態系に重大な損害を与え始めていることがみいだされ、陸起源の海洋の汚染が改めて注目されている。
[鈴置哲朗]
海洋汚染の問題点
河川水などによる移送の過程で、汚染物質の一部は底質中へ取り込まれ、また、内湾や内海などでは外洋の水との混合、希釈によって移動拡散する。このことは逆に、底質や外洋水自体の汚染レベルが相対的に徐々に上昇することを意味する。内湾、内海など沿岸水中の物質の平均的な滞留時間は、せいぜい数か月から長くても数年程度と見積もられている。沿岸域では環境の悪化を生じた場合にも、汚染物質の流入規制をして自然の浄化過程によるか、浚渫(しゅんせつ)などの近代技術を併用するかなどして環境の回復を図ることが不可能ではない。一方、外洋は、陸から100~1000キロメートルを超えて広がる広大な部分で、そのなかでの物質の滞留時間は100年とか1000年という長い時間尺度をもつようになる。これは、外洋水が沿岸水に比べてはるかに多量の物質を長時間にわたり蓄えうる能力をもつことを、いいかえれば短時間では濃度の変化はきわめておこりにくいことを意味している。しかし、汚染物質が徐々に蓄積され、その濃度レベルに上昇の徴候が現れたときには、その時間・空間的な規模の大きさからもわかるように、自然の力に頼る以外には清浄な海の環境へ戻す手だてはなく、人間のライフ・サイクルを超えた長い時間を要する。さまざまの起源をもつ汚染物質が海洋環境で少しずつ蓄積を続けることにより生物生態系にどのような影響が現れるかを予測し、汚染物質の付加を防止するための対処に遅れを生じないように絶えず監視を続けることが、健全な海洋環境を守るために必要である。
[鈴置哲朗]
海洋汚染の対象物質
すでに直接間接に海洋環境に入り、外洋の表面水や、ときとして深層にまで及んでいるものを含めて、環境になんらかの影響を及ぼすと考えられる物質には次のようなものがある。
〔1〕人工放射性元素 核兵器、原子力発電など原子力エネルギーの多方面にわたる利用に伴って、いくつかの核分裂生成核種(3H,90Sr,137Cs,144Ceなど)、誘導放射性核種(14C,54Mn,60Coなど)、超ウラン元素(Pu,Np,Cmなど)といったさまざまの人工放射性元素が現在、地球上で常時生成されている。これらの核種は、ウラン鉱の採掘とその精錬、核燃料としての原子力発電所での使用、使用済み核燃料の再処理という核燃料サイクル中の各過程から漏出して、環境における濃度レベルを今後も徐々に高める可能性がないとはいえない。また、原子力施設の事故に伴う大量の高レベル放射能の放出は、イギリス(ウィンズケール、1957年)、アメリカ(スリーマイル島、1979年)、旧ソ連のウクライナ(チェルノブイリ、1986年)および日本(福島、2011年)での原子力発電所の事故にも見られるように、程度の差はあれ重大な環境破壊をもたらすことを世界に知らしめた。一方過去には、ソ連による高レベル放射性廃棄物の日本周辺海域への不法投棄などの事例もあり、核物質の処理と管理については使用の前後を問わず今後の慎重かつ国際的な監視が必要である。また、超ウラン元素とそれらの化合物は化学的にも毒性の強い物質である。プルトニウムは現在でも地球上で広く大量に核兵器や核燃料として輸送や貯蔵をされており、新たな汚染源となることが憂慮される。
〔2〕石油 現在、年間およそ300~400万トンの石油がさまざまな形や経路で海洋環境に流入していると推定されている。エネルギー源として、また石油化学工業の原料としての石油消費量の増大に伴う海上輸送量や陸上貯蔵・精製施設の増加、また海底油田の開発などの結果、海洋環境への流入量は今後急速に減少するとは考えられない。また、タンカー、海洋油井あるいは陸上施設の事故の場合には、これまでの多くの事例が示しているように一度に大量の原油などが流出し、周辺の環境にとくに深刻な打撃を与える。海洋環境に入った石油は、油膜あるいは油塊として海面上に浮遊するもの、海水中に溶解・分散するもの、および海底に沈積するものなど多様な形で存在しながら徐々に風化する。原油は数千の異なる性質をもつ化合物から構成されるが、その構成成分のなかには、多環芳香族炭化水素のように生体にきわめて悪い生理作用を及ぼす物質が含まれている。しかもこれらは他の構成成分に比べてきわめて安定であり、過去に汚染された海域の底質中にはかなりの量が残存し、海底の侵食などによってこれらが再溶出する。そのために慢性的な油汚染を生じ、周辺の魚介類や海藻などに大きな影響を与えている。世界中の多くの外洋に面する海浜は漂着油塊によって汚染され、魚介類の汚染や海岸利用の障害などの深刻な問題を生じている。海面上に拡散している油膜は、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)やポリ塩化ビフェニル(PCB)などさまざまの人工有機化合物を膜中に濃縮したり、また、海水の蒸発や大気―海洋間の物質・エネルギー交換などを妨害したりする。石油の海洋における移動や拡散などの物理的な機構や、生物への蓄積、化学的な分解過程など、流入後の消長についてはまだよくわかっていない点が多い。
〔3〕人工有機化合物 過去に大量に使用されたDDT、PCBなどの有機塩素系化合物が、海水中にも普遍的に存在する。濃度分布は一様ではなく、先進工業国の分布に対応して北半球中緯度海域で比較的高濃度の汚染が認められている。これらは過去に農薬や一般家庭での殺虫剤として、また熱媒体、絶縁剤、添加剤などとしてともに大量に利用されたものである。日本や欧米の諸国ではこれらの製造および使用はすでに禁止され、より安全性の高い代替物質を使用しているが、それでも一部途上国では農業目的として、また、マラリア対策として年間かなりの量のDDTが現在なお使用されている。これらの物質はきわめて安定した化合物である上に、さまざまな残留毒性をもつことが指摘されている。かなりの部分がいまなお陸上にも残存し、それらが河川や大気を通じて海洋へ流入している。海水中の濃度が平均0.1ppt(1兆分率)程度であるのに対して、海洋生物中の濃度はppb(10億分率)からppm(百万分率)つまり1万倍から1000万倍の範囲でこれらの物質を体内に蓄積していることが知られている。また、これらは食物連鎖によって、たとえば、プランクトン→魚類→海産哺乳(ほにゅう)動物(クジラ、アザラシなど)の順でppmレベルまで濃縮される。とくに、生体内では油脂中に選択的に濃縮される。農業生産における殺虫剤の使用状況をみると、より高い収量を得るために先進国、途上国を問わず、かなりの量が依然として利用されている。とくに日本では収量のほぼ2倍の殺虫剤が使用されている。これら代替物質についても今後の十分な監視が必要であろう。塩素を含む有機化合物については生態系への新たな影響が顕在化しはじめている。
(1)ダイオキシン類 ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、PCBの一種であるコプラナーPCB(Co-PCB)などを含めた一群の有機塩素系化合物の総称であり、これらのうち約30種の異性体が毒性の評価対象とされている。加熱、燃焼、焼却などの過程や化学合成過程で生成される副生成物の一つで、非意図的生成化学物質ともよばれている。その毒性は急性致死毒性、催奇形性、発癌(はつがん)性、また、生殖障害や免疫抑制などによって特徴づけられるが、その程度は化合物それぞれによって異なる。これらの発生源は多様であるが、そのうち廃プラスチックを大量に含む都市ごみや産業廃棄物の焼却炉から発生するものが総排出量のおよそ80%を占めている。これらは排煙とともに環境に放出され、大気を通じて移動拡散する。すでに土壌、底質、魚介類、ヒトの体脂肪を中心に広範に検出されている。今後の土壌、河川、海洋での汚染の状況とその推移に注意深い監視が必要とされている。
(2)内分泌系(エンドクリン)攪乱(かくらん)物質 環境ホルモンあるいはホルモン類似化学物質ともよばれている。ダイオキシンなどの有機塩素系化合物、トリブチルスズなどの有機金属化合物、フタル酸エステル、アルキルフェノール類、ビスフェノールAおよびトリアジン系除草剤など数十種類以上の化学物質の総称である。これらはホルモン類似の構造をもつためにホルモン受容体に誤って結合しホルモン活性に異常な変化を与えることが知られている。また、物質代謝の攪乱や免疫系の阻害、発癌作用などをもたらすとされている。ヒトの乳癌発生率の上昇や精子数の減少、さらにある種の鳥類、魚介類など野生生物にみられる生殖機能障害はこれらの化学物質によるものといわれている。生物のホルモンシステムを攪乱するこれらの物質が環境に放出された結果、生殖や発育などというヒトや他の生物にとって重要な自己の保存や種の存続が危うくされるのではないかと危惧(きぐ)されている。現状では環境中での分布や生物への影響の実態はまだ明確でない。これらの物質のモニタリング体制の整備、生理作用とそのメカニズムの解明、健康への影響評価の確立が急がれる。
〔4〕重金属 水銀HgやカドミウムCdをはじめ、銀Ag、銅Cu、亜鉛Zn、ニッケルNi、クロムCr、スズSn、鉄Fe、マンガンMn、アルミニウムAl、鉛Pbなどがある。これらは極微量の場合を除けば元素の形でも化合物の形でも例外なく有害である。一般に生体中に取り込まれやすく、銅Cu、亜鉛Zn、カドミウムCdなどのように環境に比べて1万~10万倍も生体中に濃縮されるものもある。また重金属ではないが、ヒ素As、アンチモンSb、セレンSeなども環境汚染の面からみると、この仲間に加えてもよい。重金属などについては、風化など自然の過程のなかで河川により海に運ばれる年間量よりも、鉱業としての年間生産量のほうがはるかに大きくなっている。これらの金属は、一方では河川や工場廃水を通じて沿岸から、他方では化石燃料の燃焼やセメント製造過程での石灰の焼成の結果として大気経由で外洋へ移送されている。産業活動などにおいて重金属は必要不可欠な資源であり、今後も連続的に使用されよう。
〔5〕固形の廃棄物 海浜、海面、海底には、プラスチック、ガラス、金属など海洋環境では急速に分解できない生活・産業廃棄物が浮遊または沈積している。現在年間数百万トン以上のこれら廃棄物が海洋へ投棄されていると推定される。海洋環境への影響は明確に把握されていないが、少なくともレジンペレット(プラスチック製品の中間材料で粒状のもの)や発泡スチロールの破片や漁網など海洋環境ではほとんど分解されないで浮遊を続けるプラスチック類が、海鳥、ウミガメ、アザラシなどの海洋生物にさまざまな障害を与えていることはよく知られている。海底での固体廃棄物の蓄積は、海水と堆積物の間の化学物質の交換を妨げ、海底生物の活動に大きな影響を与えるなど、投棄量の増大は海底の生物生態系に深刻な影響を及ぼすことが懸念される。
〔6〕富栄養化による水質汚濁
(1)赤潮 陸水によってリンや窒素の化合物などが海水に付加されることによる富栄養化と塩分の低下に、日射による海面水温の上昇、静穏な海況など海面付近の環境要因が重なって、鞭毛藻(べんもうそう)類、珪藻(けいそう)類などの植物プランクトンが異常に発生、増殖して海水が赤褐色に見える現象である。これら植物プランクトンは魚のえらを閉塞(へいそく)させることによる呼吸障害、また、死滅分解過程での毒物の生成や大量の酸素消費による酸欠状態などをもたらし魚を死滅させる。
(2)青潮 海底の窪地(くぼち)(浚渫跡や航路など)に沈積したプランクトンの死骸(しがい)や汚泥中の大量の有機物がバクテリアによって分解される際に酸素が消費され、硫酸還元により硫化水素を生じる。風による湾外への離岸流が生じると、海底のこの水塊がそれを補うために湾奥部の表面に浮上する。このとき硫化水素が酸化されて硫黄(いおう)や多硫化物に変化し、海水が乳青色や乳白色に見える現象である。異臭を発し、透明度はほとんどなく、酸欠状態により魚貝類を死滅させる。
(3)富栄養化をもたらす陸上からの汚染物質付加の削減をはじめとする環境保全施策の結果として、近年の赤潮・青潮の発生件数は減少気味である。しかし、このところの赤潮には多種多様なプランクトンが外洋を含む多くの海域で長期にわたって発生するという特徴が現れている。これは長い年月にわたって汚染物質を蓄積し続ける海洋環境に対応する生物的な変化の指標の一つという指摘もある。
〔7〕熱汚染 重工業関連の工場や発電所などの冷却水として大量の水が利用されている。大型の火力・原子力発電所における熱から電気へのエネルギーの変換効率は一般に30~50%といわれ、その他の損失分はほとんど冷却水の温度上昇の形で消費されて環境へ放出される。この排水は環境の水温に比べておよそ10℃前後高くなり温排水とよばれている。重工業に用いられる冷却水の場合、総量は少ないが高温の排水が放出される。環境の水温は水生の生物にとってもっとも重要な生息環境因子の一つであるので、温排水による水温環境の変化は、それがたとえわずかであっても生物相に重大な変化をもたらすことになる。
[鈴置哲朗]
海洋汚染防止対策
国際的な取り組み
海洋汚染の諸問題は、全地球的な規模で対処しなければならない。増大する環境汚染に対する国際的な動きとして、その後の汚染問題の対処への重要な指針を与えたのがストックホルムで開かれた第1回国連人間環境会議の「人間環境宣言」(1972)である。そのなかで、環境汚染防止のために各国協力の下にあらゆる方法を講じる必要性が述べられた。これを受けて設立された国連環境計画(UNEP)は、大気、海洋など地球環境をあらゆる面からモニタリングする全地球環境監視組織(GEMS:Global Environment Monitoring System)展開の必要性を指摘した。これに対応して、国連傘下のユネスコ(UNESCO)の政府間海洋学委員会(IOC:Intergovernmental Oceanographic Commission)、国連食糧農業機関(FAO)の海洋資源諮問委員会(ACMRR:Advisory Committee of Experts on Marine Resources Research)、世界気象機関(WMO)、世界保健機関(WHO)、国際海事機関(IMO)、国際原子力機関(IAEA)、それに前述のUNEPなどは相互の協力のもとに積極的に汚染防止活動を開始した。また、海洋汚染の問題は幅広い分野にかかわるので、汚染の科学的諸問題に関する助言を行う組織として上記各機関合同の専門家グループ(GESAMP)が組織されている。一方、約170か国の参加した1992年の「環境と開発に関する国連会議(UNCED)」(地球サミット)で採択されたアジェンダ21(地球再生の行動計画)の17章「海洋環境および海洋生物資源の保護と合理的利用」に沿って、具体的な国際協力計画が推進されている。また、1994年の海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)では、「世界のどの国も海洋環境を保護し、保全する義務を持ち、海洋環境の汚染を防止、軽減、規制するための必要な措置をとる」というガイドラインが示された。これに従って海洋汚染防止のための国際的な条約の締結あるいは既存条約の改定が進められ、各国の国内法の整備もなされている。UNEPの主導による海洋環境保全の地域的な取り組みとしては、日本、韓国、中国およびロシア4か国により黄海および日本海を対象海域とする「北西太平洋地域における海洋および沿岸の環境保全・管理・開発のための行動計画」(NOWPAP:North-west Pacific Action Plan)が、1994年に世界で12番目のものとして始まっている。
[鈴置哲朗]
国内における取り組み
日本の水質汚濁に対する法律的な規制は、水質保全法と工場排水規制法(1958)に始まる。さらに、進行する公害への対策推進のために、公害対策基本法(1967)、水質汚濁防止法(1970)が制定された。海洋の汚染防止に関しては、廃棄物その他の物質の投棄による海洋汚染の防止に関するロンドン・ダンピング条約(1972)、また船舶からの汚染を禁じたマルポール条約MARPOL73/78(1973、1978、1997)に対応して、1970年(昭和45)に「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」(海洋汚染防止法)、「廃棄物の処理および清掃に関する法律」(廃棄物処理法)などが制定されている。その後も国際的な動きに対応して、公害対策基本法を統合した環境基本法(1995)など、公害防止対策の拡充のために法律の制定や改定を行って環境保全行政全般の充実強化が図られている。
[鈴置哲朗]
海洋汚染監視の現状と将来
国際条約や国内法にのっとって海洋環境にかかわりの深い国の行政機関、地方自治体、試験研究機関、大学、民間ボランティアなどによって海洋汚染の観測、調査研究、技術開発、防止対策、汚染物質防除体制整備、監視取締りなどが多岐にわたって行われている。たとえば、国土交通省では海洋汚染防止法に基づいて、気象庁が海洋汚染の防止および海洋環境の保全のために日本近海および北西太平洋の海洋バックグランド汚染観測を、また、海上保安庁が日本近海、主要湾などを対象として周辺海域における廃棄物等による海洋汚染の監視取締りのための調査・観測を、環境省は水質汚濁防止法、環境基本法などに基づいて沿岸域を中心とした海洋汚染の調査を、農林水産省(水産庁)も漁場、海浜など水産資源の環境保全の観点から調査を実施している。調査・観測の結果はそれぞれの年次報告などで公表されるとともに、国際機関にも逐次報告されている。日本など先進諸国では環境保全のための法律や防止技術が整備され、また汚染物質排出の厳しい規制により、状況は確実に改善の方向に向かっている。ただ、今後出現の予想される新たな汚染の早期検出のためにはより充実した海洋環境の調査・観測・監視の継続が必要である。途上国では今後、環境保全にかかわる体制の整わないままの急速な経済発展によりさまざまの公害が発生し、有害物質の排出が海洋環境へも深刻な影響を与える可能性がある。南北から黒潮や親潮などの海流が到達している日本では、今後も近隣諸国からの越境汚染に対して周辺の海洋環境の十分な監視を行うことが重要である。
[鈴置哲朗]
『川崎健著『海の環境学』(1993・新日本出版社)』▽『原島省・功刀正行著『海の働きと海洋汚染』(1997・裳華房)』▽『東京大学海洋研究所DOBIS編集委員会編『海の環境100の危機』(2006・東京書籍)』▽『功刀正行著『海の色が語る地球環境――海洋汚染と水の未来』(PHP新書)』