翻訳|cyclic AMP
サイクリックAMPともいう。cAMPと略記する。3′,5′-cAMPと2′,3′-cAMPの2種類が知られている。正式名称はサイクリックアデノシン-3′,5′(または2′,3′)-一リン酸。2′,3′-cAMPはRNAの加水分解の際に,中間体として生成する物質で,代謝調節に関与する3′,5′-cAMPが生理的にはより重要性が高い。このため単にcAMPと表記すれば普通は後者を指す。エピネフリンおよびグルカゴンの血糖値上昇作用(グリコーゲン分解促進作用)の発現にあたって重要な働きをする物質であることが,サザランドE.W.SutherlandとロールT.W.Rallによって見いだされ(1957),一躍脚光を浴びた。動植物組織や細菌細胞に広く分布し,ホルモンその他の刺激によって活性化される膜結合型の酵素,アデニル酸シクラーゼによって,ATPから合成される。細胞内にはcAMP依存性プロテインキナーゼと呼ばれる酵素があり,cAMPによって活性化されて種々の酵素やタンパク質をリン酸化する。リン酸化によって活性化される酵素と不活性化される酵素の両方が存在する結果,ホルモンなどの効果は増幅され,しかも細胞内の代謝反応は複雑かつ合目的的な制御を受ける。cAMPはFSH(卵胞刺激ホルモン),MSH(色素細胞刺激ホルモン),TSH(甲状腺刺激ホルモン)など種々のホルモンのシグナルを仲介し増幅するホルモンのセカンドメッセンジャーとして機能している。合成されたcAMP自身はcAMPホスホジエステラーゼによって5′-AMPに分解され,またリン酸化された酵素はプロテインホスファターゼの作用で脱リン酸化される。したがって上述のような細胞の応答は一過性であり,外部からの刺激が消失すれば応答も減衰する。一方,cAMPによる代謝調節がタンパク質のリン酸化を介さない場合もある。たとえば大腸菌では,ブドウ糖(最も利用しやすいエネルギー源)の欠乏に伴ってcAMP濃度が上昇すると,特異的なcAMP結合タンパク質がcAMPを結合し,他の糖類を利用する代謝系の酵素を増産させるように働きかけることがわかっている。
執筆者:川喜田 正夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…これらのホルモンは血糖値を上昇させる働きがあるが,その理由はグリコーゲン分解の促進,合成の抑制に求められる。これらのホルモンは細胞膜に作用して環状AMP(cAMP)の合成を促進する。そして,環状AMPはタンパク質のリン酸化をつかさどる酵素を活性化するのである。…
※「環状AMP」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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