生物毒素兵器禁止条約(読み)せいぶつどくそへいききんしじょうやく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「生物毒素兵器禁止条約」の意味・わかりやすい解説

生物毒素兵器禁止条約
せいぶつどくそへいききんしじょうやく

正式には「細菌兵器生物兵器)及び毒素兵器の開発、生産及び貯蔵の禁止並びに廃棄に関する条約」Convention on the Prohibition of the Development, Production and Stockpiling of Bacteriological (Biological) and Toxin Weapons and on their Destruction。「生物兵器禁止条約」Biological Weapons Convention(BWC)ともいう。細菌兵器については、すでに1925年ジュネーブ議定書がその使用禁止を予防的に定めていた。その後1930年代には日本の関東軍(七三一部隊)が中国大陸でペスト菌などの初歩的研究・実験を行ったが、本格的には第二次世界大戦後ウイルス学などの成果を利用して、種々の生物剤がおもにアメリカによって研究・開発されてきた。一方、国連事務総長報告「化学・細菌(生物)兵器とその使用の影響」(1969)は、これらの兵器の人類にとっての危険性を指摘した。この状況のもとでジュネーブ軍縮委員会(現、ジュネーブ軍縮会議)の審議を経て、1972年にこの条約が成立した。これにより開発・貯蔵等が禁止される対象は、防疫など平和目的による正当化ができない種類と量の微生物剤その他の生物剤または毒素のほか、それらの敵対的使用のために設計された兵器、装置または運搬手段にも及ぶ(1条)。締約国は、上の禁止対象をいかなる者に対しても直接または間接移譲援助奨励、勧誘してはならない(3条)。条約発効後遅くとも9か月以内に、自国の保有しまたはその管轄下にあるこれらの禁止対象を廃棄しまたは平和目的のために転用しなければならない(2条)。

 なお、日本は1982年(昭和57)にこの条約を批准し、あわせてこの条約の実施に関する法律を制定した。2018年1月時点のこの条約の締約国・地域は、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の五大国を含む179となっている。条約発効後、その運用を検討するための検討会議が5年ごとに開催される。また自国内の研究施設、生物防護計画、疾病発生状況等について、国連軍縮局に報告書を毎年提出することになっている。その後、1994年条約締約国特別会議において、検証措置を含めた新たな法的枠組みとして検証議定書の検討を決定したが、2001年にアメリカがその作成に反対し、同会議は具体的成果をあげることなく中断された。

[藤田久一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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