防疫とは、元来、伝染病の予防(コントロール)と同義語であって、行政機構のうえからみると、1897年(明治30)の「伝染病予防法」の制定に伴い、内務省衛生局「防疫課」が設けられたのが最初である。しかし、これより先、1877年と79年のコレラ大流行を契機として制定された「伝染病予防規則」(1880)に関連して防疫の語が用いられている。伝染病予防規則は、伝染病をコレラ、腸チフス、赤痢、ジフテリア、発疹(はっしん)チフス、痘瘡(とうそう)(天然痘)の6種としたうえ、とくに致命率が高く伝播(でんぱ)力の強い急性伝染病を「疫病」とし、その予防を効果的に行うため、国および地方自治体が組織的に活動することを「防疫」と称した。防疫は平常時と発生時に大別され、また、伝播性および致命率の低い伝染病や結核、性病のように社会性の強いものは別個に扱われていた。しかし、これら疾病が激減するとともに、防疫という語よりは「伝染病対策」の語が一般的となり、さらに、より広義の「感染症対策」という包括的な語が用いられるようになった。これを反映して防疫課(旧厚生省)も、1975年(昭和50)「保健情報課」に、85年にはさらに「結核難病感染課感染症対策室」と改められ、現在は厚生労働省「結核感染症課」となっている。また法律面でも、伝染病予防法は1999年(平成11)に廃止され、かわって感染症予防・医療法(感染症法)が施行されている。したがって、現在、防疫という場合には、前述の急性伝染病発生時の対策に限定して用いるのが普通である。なお、外来伝染病の侵入防止は検疫行政として扱われ、国内防疫とは区別される。
伝染病発生の条件は「病原体」「伝播経路」「宿主の感受性」の三要因であるが、わが国で近代医学に基づく防疫は、痘瘡に対する嘉永(かえい)年間(1848~54)の牛痘接種、1858年(安政5)の種痘館(種痘所)による種痘の普及といった感受性対策(予防接種)が端緒であった。続いて1877年(明治10)と79年のコレラ大流行によって、検疫を含む病原体対策、経路対策(生活環境対策)が導入された。その結果、痘瘡やポリオの防疫は予防接種が優先され、コレラや赤痢は環境対策が、腸チフスは以上に加え、病原体対策が重点とされるようになった。つまり、疾病別に防疫のあり方、重点の置き方が異なるのである。
現代の防疫は、疾病の情報収集と常時監視制度(サーベイランス)の確立が原則とされ、WHO(世界保健機関)を中心とする国際協力事業のほか、国内における流行予測事業、感染症サーベイランス事業などが推進されている。WHOが中心となって成功した好例が痘瘡の根絶計画であり、わが国における成果としては、生(なま)ワクチンによるポリオ対策などがあげられている。
[春日 齊]
伝染病発生の三大要因(感染源,感染経路,個体の感受性)を中心に環境条件や宿主条件を加えて,総合的に対策を立てて流行を防ぐことをいう。本来,伝染病予防と同義語であるが,防疫を伝染病発生時の対策(防遏(ぼうあつ))のみに限局して使うこともあり,そのため発生時防疫と平常時防疫に区別することがある。日本においては,伝染病予防法等により感染源・感染経路対策(患者の早期発見・早期治療,隔離による伝播防止等)を,予防接種により感受性者対策を,また環境衛生の整備を目的とする各種法律によって感染経路対策(媒介動物対策,検疫による伝染病の侵入防止等)を行っている。また,環境条件や宿主条件に対する対策として,衛生教育や個人衛生も重要である。これらは一般住民に対して公衆衛生の知識を向上させることによって,生活・習慣の改善,かつ栄養状態の改善を行うことである。これらの発生時防疫に加えて最近では,流行を予測したり流行を未然に防ぐという平常時防疫の体制も整備されつつある。
→検疫
執筆者:豊川 裕之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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