日本大百科全書(ニッポニカ) 「生薬学」の意味・わかりやすい解説
生薬学
しょうやくがく
広義では、生薬を研究対象としたあらゆる学問をいう。科学の進展とともに、その研究分野は多様化し、およそ次のような領域に分けられる。(1)組織形態学的研究、(2)本草(ほんぞう)学的な考証研究、(3)栽培、組織培養、経済流通など生産、流通に関する研究、(4)品質評価に関する研究、(5)含有成分の化学的研究および合成研究、(6)活性成分の吸収、代謝に関する研究、(7)配合薬(処方)に関する研究、(8)生物活性に関する研究、(9)臨床的研究、(10)民族薬物学を含めた資源開発に関する研究。
また、生薬学を狭義に解釈した場合には、生薬材料学ともいえる。この学問は市場調査のほか、贋偽(がんぎ)品を鑑別し、その基源を明確にするための外部・内部形態学、成分化学的研究などが対象となる。生薬材料学において、個々の生薬を生薬学的に分析説明する際には、基源植物、薬用部位、産地、形、色、臭気、味、含有成分などを明確にする必要があるほか、効能、栽培、適当な採集時期、加工方法、等級などにも触れる必要がある。さらに本草学的に古来の正品を明らかにし、基源の変遷があるものについてはそれを明確にすることも要求される。こうした現在の生薬材料学は、本草学的分野は残しているものの、主要な薬物については、その大半が明確にされている。主要漢薬のうち、不明確なものとして残されているのは、「大黄(だいおう)」「麻黄(まおう)」「甘草(かんぞう)」「桂皮(けいひ)」「升麻(しょうま)」などである。
生薬学の語は、1880年(明治13)、薬学者である大井玄洞(げんどう)が『生薬学』(ドイツ語のPharmakognosieの訳語として用いた)を出版したことに始まる。当時はヨーロッパの生薬を中心としたものであったが、やがて中国でもこの語が用いられ、漢薬もその対象となった。現在の中国では、生薬学にかえて、中薬学、薬材学の語が使われている。近年、生薬学は個々の薬物の品質評価法の開発・研究へと向かうようになっており、形態的、成分化学的、生化学的、薬理学的、臨床医学的手段を含めた総合的な研究となりつつある。
[難波恒雄・御影雅幸]