日本大百科全書(ニッポニカ) 「畑作農業」の意味・わかりやすい解説
畑作農業
はたさくのうぎょう
湛水(たんすい)と灌漑(かんがい)の機能を備えた水田農業に対して、水をたたえないで作物を栽培する畑地利用の農業の総称である。稲作中心のわが国では、農用地を灌漑・湛水の機能の有無によって大別することが重視されてきたが、湛水機能をもっていない農耕地は、通常そこで栽培されている作物の種類によって、永年性の果樹、クワ、チャなどが栽培される樹園地と、同じく永年性の牧草が栽培される牧草地と、一般畑作物や蔬菜(そさい)などが栽培される普通畑とに細分され、もっとも狭義には、この普通畑を中心にして営まれる農業が畑作農業である。
わが国の普通畑は118万8000ヘクタール(2000)であるが、標高、傾斜度、土壌等級などからみて、生産環境のかならずしも恵まれていない畑地が相当の比率を占めている。本州では主として水利の制約から稲作が行われていない丘陵や台地および山間傾斜地帯に多く分布し、北海道では稲作に適さない広大な平坦(へいたん)地および丘陵傾斜地帯に分布していて、経営形態は蔬菜作を中心にするものから、ムギ、マメ類、イモ類などの普通畑作物中心のものまで多種多様である。
概して経営面積は稲作よりも大きいが、畑作特有の課題である地力の維持、気象変動や価格変動などによる危険の分散、経営内の労力配分の適正化、国際的な市場競争への対応などのために、適地適作の原則を守りつつ、数種類の作物を組み合わせた輪作方式をとることが重要になっている。
[七戸長生]
『田中稔著『畑作農法の原理』(1981・農山漁村文化協会)』▽『農山漁村文化協会編・刊『畑作全書』全4巻(1981)』▽『後藤雄佐・中村聡著『作物2 畑作』(2000・全国農業改良普及協会)』