地形学では,一般には台状,テーブル状の地形をさす。狭義には古期岩の水平層から成る台状の地形,すなわち〈大陸台地〉をいう。地形学的台地には大陸台地のほかに溶岩台地,石灰岩台地,火山灰砂台地,洪積台地が含まれる。日本の例では淀橋台,小日向(こびなた)台,富士見台など〈○○台〉の地名の場所は台地地形の一部で,多くは洪積台地にあたり,一方,秋吉台,平尾台,帝釈台,阿哲台などは石灰岩台地にあたる。また洪積台地の例である武蔵野(むさしの),羽曳野(はびきの),饗庭野(あえばの),那須野(なすの)など〈○○野〉の付された地名や,三本木原(洪積台地),大野ヶ原(石灰岩台地),笠野原(火山灰砂台地)など〈○○原〉の地名も台地に多くみられる。台地は,台,野,原に相当する平たんな面が急斜面に囲まれて谷や低地に臨み,一般に水利に恵まれないため開発の時期が遅れてきた場所でもある。洪積台地は丘陵地ほどの起伏がなく,低地よりは相対的に上位にあり,低湿な沖積低地とは異なる性格だが,ともに平野の地形構成要素となる。
大陸台地は大陸を特徴づける主要な地形で,造陸運動(広い地域にわたるほぼ均等の隆起・沈降運動)の結果,ほぼ水平な堆積岩層で構成され,大陸の核心部の楯状地を取り巻いて分布する。北アメリカのアパラチア台地,ユーラシアのシベリア台地など,またアフリカの中央高原のほか,インド半島,アラビア半島,オーストラリア・南アメリカの一部を占める旧ゴンドワナ大陸の主要部分は大陸台地から成り立っている。世界地理的に用いられる〈高原〉と大陸台地とはほぼ同義と考えてよい。この意味の台地の用語が,plateau,またはcontinental plateauである。同様の規模で広域を溶岩層が覆っている台地が溶岩台地lava plateau(デカン高原,コロンビア高原など)である。日本の例では第三紀末の火山活動の結果生じた溶岩台地が残存している例として,耶馬渓溶岩台地,屋島溶岩台地などがある。これらは定高性の山稜や平たんな山頂部が,溶岩層が硬いため浸食に抵抗して残り,かつては広域に分布していた溶岩層の存在をしのばせる。
火山灰砂台地はカルデラ火山の周辺に分布する。鹿児島湾を取り囲む〈原〉(ばい,ばると読む)地名のほとんどは火山灰砂台地の典型である。カルデラ(この場合は鹿児島湾の位置にあたる姶良(あいら),阿多(あた)の2カルデラ)の形成に先立ち,大量に噴出した石英安山岩質の軽石や火山砂などが熱雲となって広がり周辺に堆積して平地をつくり,その後開析をうけてシラス台地となった。中九州にも阿蘇溶岩から成る台地が広域に分布するが,これも阿蘇カルデラに伴う熱雲堆積物である。この〈溶岩〉は俗称で火山灰砂礫が高熱によって溶結したものであり,那須火山北東麓にも同様の台地がある。シラス型の台地は,ほかにも肘折,十和田,支笏湖などの各カルデラの周辺に分布する。シラスは比重が小さいため豪雨による浸食を受け,土地災害と結びつきやすい。
秋吉台などの石灰岩台地は,石灰岩が物理的に硬いことと,石灰岩が炭酸気を含む水に溶解し地表流を生じにくいことが原因となって,準平原に由来する平たん面を保存しやすいために形成される。石灰岩の出現位置によって標高は200mから1500mの間にまちまちであり,石灰岩特有の溶食地形であるドリーネなどのカルスト地形が伴うので〈カルスト台地〉ともいわれる。日本では起伏の大きい山地内にカルスト台地の部分が平たん地を提供するため,開拓集落や牧草地などが立地し,同時に石灰岩が採掘されている場所が多い。
執筆者:式 正英
地質学的には,台地とは,安定地塊と呼ばれるものの一種で,古く先カンブリア時代に成立した,深成岩・変成岩を主体とする複雑な構造の基盤岩類で構成される土台と,これを覆う古生代以後の堆積岩類とからなる。英語ではplatformという。つまり,楯状地を土台として,この上に堆積岩類をのせた構造となっている。ふつう楯状地に隣接していて,ロシア台地,シベリア台地などのように,ゆるやかな地形の広大な地域をつくっているものがある。台地は基盤岩類が形成された後は,もはや変動を受けることなく安定化し,その後は単に全般的な沈降・隆起を経験したにすぎない。そのため堆積岩類は一般に厚さも小さく,構造的にもほぼ水平で,褶曲作用,断層運動,火成活動などはほとんど認められない。卓状地ともいう。
執筆者:植村 武
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
四方ないし一方を崖(がけ)で縁どられ、周囲より一段と高い平坦(へいたん)地を頂にもつ卓状ないし階段状の高台。ほぼ水平な地層からなる。その平坦地を台地面といい、それを囲む崖や急斜面を台地崖(だいちがい)とよぶ。背後に段丘崖のある狭い台地は段丘とよばれる。数十万年前以降に扇状地、三角州、海岸平野、浅海底、あるいは火山の山麓(さんろく)などが隆起して侵食され、周囲に崖が生じることによって形成された洪積台地が日本各地に広く発達している。その代表例が関東平野である。
台地の形成過程を理解するために、地球温暖化により陸地の氷河が融解し、海面がしだいに上昇することを考えてみるとよい。東京湾は拡大し下町の低地が海になり、入り江は埼玉県から群馬県へと拡大するであろう。入り江に立つ波は周囲の台地を侵食して海食台を発達させ、そこで生じた土砂は入り江に堆積(たいせき)するであろう。さらに海面が上昇すると、入り江の水深は増して波が強まり、台地はさらに侵食され、ついには入り江の底は深い海の底になって大東京湾が生じるであろう。
このような事変が今から15万年前から12万年前にかけて実際に生じた。当時の拡大した東京湾は古東京湾とよばれている。この海が10万年前、8万年前としだいに低下するにつれて、深かった入り江は浅くなり、海進期に海食台上に堆積していた土砂は沿岸環境下で強い波によって再移動させられ離水した。川によって陸地から土砂が供給された場所では、離水期に河成平野が発達した。たとえば、東京では多摩川が扇状地を発達させ、鬼怒(きぬ)川は筑波(つくば)台地に鳥趾状三角州(ちょうしじょうさんかくす)(水鳥が足を広げたような平面形をもつ三角州)を発達させた。これらの河成平野は数万年前以降に海水準がどんどん下がり、2万年ほど前には今より100メートルほども下がる過程で台地化した。
当時の台地は関東平野では現在も残されているが、越後平野にはみられない。関東平野はこの10万年間に数十メートル(年間0.2~0.3ミリメートル)隆起し続けてきたが、一方、越後平野は信濃(しなの)川や阿賀野(あがの)川などからの大量の土砂が堆積し続けることによって沈降し、後氷期の海進によってふたたび入り江になり、台地は土砂に埋め立てられてしまったためである。
なお、世界の安定大陸には洪積台地とはまったく異なる台地が発達している。たとえば、アメリカ西部のコロラド高原の南西部に広がるコロラド台地は、新生代や中生代の地層が1000万年という長い時間をかけて厚さ1000メートルほども侵食された結果、侵食されにくい石灰岩層が地表に露出してできた広大な台地で、スペイン語でテーブルを意味するメサとよばれる。日本にも香川県の屋島や群馬県の荒船山をはじめ、侵食されにくい水平層でできた台地があるが、いずれも小規模である。
[池田 宏]
『池田宏著『地形を見る目』(2001・古今書院)』
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…ほぼ水平で平たんな地表面(段丘面)とその前方あるいは背後の急傾斜な崖(段丘崖)からなる。〈台地〉とほぼ同様な地形をさすが,台地が〈低地〉に対立する語として用いられ,その階段状の平たんな地形を構成する地層や地質のいかんによらないのに対して,段丘は過去の水面(河川,海,湖など)に関連して水中で形成された平たん面がその後に離水した地形をさし,河岸段丘,海岸段丘,湖岸段丘lacustrine terraceなどに区分される。したがって溶岩台地とはいうが,溶岩段丘とはいわない。…
※「台地」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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