漢字、漢文についての読み方の一つ。音読(おんどく)の対で、倭読(わどく)(和読)ともいう。次の二つの場合がある。
(1)一字一字の漢字について、その意味にあたる大和詞(やまとことば)で読むこと。訓読みともいい、「山」を「やま」、「川」を「かわ」と読む類(たぐい)である。このように、その字について定まった日本語の読みを「訓」という(対して、「サン〈山〉」「セン〈川〉」と読む類を音読みともいう)。訓は、中国語である漢文の日本語への翻訳の過程で、一字一字の読みとして定着したもので、『万葉集』の借訓仮名によって、奈良時代にはかなりの字について訓の成立していたことが知られる。また、訓は、漢文の訓読によって生じたものであるから、その字の文脈上その他の意味によって、多数の訓をもつものも出てくる。鎌倉初期の辞書『字鏡集』では、「行」という字について42語の訓をつけている。また、今日、訓とされているものについても、「うま(馬)」「うめ(梅)」などは古い字音に基づくとされ、「かわら(瓦)」「てら(寺)」などは梵語(ぼんご)や朝鮮語から入ったものといわれる。このように、訓とされているものについても、出自のうえでかならずしも明確とはいいがたいものもある。
(2)訓読のもう一つの場合は、漢文を日本語の語法に従って読み下すことをいう。たとえば、『論語』の「有朋自遠方来、不亦楽乎」を「ともゑんぱうよりきたるあり、またたのしからずや」と読む類である。中国語の文章である漢文と日本語とは、言語の構造が異なっている。そのため、語順の差を返読で調整するために返点(かえりてん)を付し、助詞・助動詞を補ったりするために、ヲコト点(乎古止(おこと)点)や仮名をつけ、漢字の読みを示すなどして、日本語の語法に従って対訳的に読めるようにくふうされた。その場合、語はすべてが訓読みされたのではなく、先の例の「ゑんぱう」のように字音語として読まれたものも含むが、それも日本語の文構造のなかに収められたもので、全体としては日本語ということになる。漢文訓読の資料は、奈良時代末以降のものなどが残っており、当時の言語資料として貴重である。また、漢文訓読は古代における学問の基本的方法であり、ヲコト点図や訓法に、それぞれの仏教宗派や博士(はかせ)家の伝統的個性が反映されている。訓読の文体は、平安時代の平仮名文とは別個の位相言語をなし、中世の和漢混交文体の成立や、近代文章の文体の成立にも大きな影響を与えた。
[白藤幸]
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