日本大百科全書(ニッポニカ) 「當麻曼荼羅縁起」の意味・わかりやすい解説
當麻曼荼羅縁起
たいままんだらえんぎ
絵巻。二巻。鎌倉・光明寺蔵。国宝。大和(やまと)国(奈良県)當麻(たいま)寺に伝わる織成(しょくせい)の曼荼羅制作に関する縁起物語を説いたもので、鎌倉中期(1260前後)の制作と推定される。内容は、奈良朝の昔、横佩(よこはぎ)の大臣(おとど)の姫君が若くして仏法に帰依(きえ)して當麻寺に入り、生身の阿弥陀如来(あみだにょらい)を拝したいと祈願すると、やがて1人の尼が現れ蓮(はす)の茎を集めることを申しつける。尼はこの蓮の茎から糸をとり、侍女に一丈五尺の浄土曼荼羅図を織らせ、姫にその図の意義を説いたのち雲に乗って去ったが、この尼こそ阿弥陀如来の化身(侍女は観音の化身)であり、のち姫は臨終に際し阿弥陀の来迎(らいごう)を受けて極楽往生を遂げた、というもの。この縁起物語は後世しだいに潤色を加え、中将姫伝説として謡曲や浄瑠璃(じょうるり)などに扱われ広く親しまれている。本絵巻は料紙を縦につないだ幅広(48.8センチメートル)の大画面を活用し、画中に同一人物を繰り返す異時同図法などを用い、奇瑞(きずい)に満ちた物語を巧みに展開させる。画風は細めの精緻(せいち)な描線を主体に端正な作画が支配的であるが、屋外の場面には活趣に富んだ描写が駆使されている。
[村重 寧]
『小松茂美編『日本絵巻大成24 当麻曼荼羅縁起他』(1979・中央公論社)』▽『白畑よし編『新修日本絵巻物全集12 当麻曼荼羅縁起他』(1977・角川書店)』