改訂新版 世界大百科事典 「発展方程式」の意味・わかりやすい解説
発展方程式 (はってんほうていしき)
equation of evolution
時間とともに状態が変化していく物理現象があって,その変化のしかたが過去の履歴には無関係に,その瞬間の状態によって定まるならば,その変化のしかたは一つの微分方程式で記述される。このように状態の時間的発展を記述する方程式を,一般に発展方程式という。例えば熱伝導の現象において,時刻tにおける温度分布u=u(t,x)(xは空間の点)の変化のしかたは,偏微分方程式,
∂u/∂t=Δu (Δはラプラシアン) ……(1)
で記述されるが,各時刻tに対してxの関数u(t,・)をある適当な関数空間の要素と考えて,たんにu(t)と書き,対応u→Δuをその関数空間から同じ関数空間への写像と考えて一般にAと書くと,(1)は,
du(t)/dt=Au(t) ……(2)
と書くこともできる。ここでd/dtは関数空間の中での収束を使って定義された微分演算である。発展方程式は通常一つの関数空間を定めて(2)の形に記述して取り扱われる。波動方程式∂2u/∂t2=Δuは,行列の形を使って,
(ut=∂u/∂t,Iは恒等作用素)
と書けるから,とおくとdv/dt=Avと表され,(2)と同じ形の発展方程式になる。また,量子力学に現れるシュレーディンガー方程式は,の形であるが,これは適当なヒルベルト空間において作用素H=Δ-q(x)・を適当に定義することにより,
du/dt=iHu
と書けるので,これも発展方程式である。
一般に,あるバナッハ空間Eで方程式(2)を考えるとき,uの初期値u(0)∈Eに時刻t>0におけるuの値u(t)を対応させる作用素をTtと書くと,任意のt,s>0に対し,
Tt+su(0)=u(t+s)=Ttu(s)=TtTsu(0)
となるから,
Tt+s=TtTs ……(3)
なる関係がある。(3)を満たす線形作用素の族{Tt}t0を1パラメーター半群,または単に半群と呼ぶ。このとき(2)はh↓0のとき,となることを意味するので,Aを半群{Tt}の生成作用素という。発展方程式(2)を解くことは,バナッハ空間Eにおいて,半群{Tt}からその生成作用素Aを特徴づけ,逆にAから{Tt}を構成することに帰着される。その理論は吉田耕作とヒレE.Hilleにより同時(1948)に互いに独立に確立されたので,吉田=ヒレの理論と呼ばれ,現代の解析学においてもっとも重要な理論の一つである。
執筆者:伊藤 清三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報