改訂新版 世界大百科事典 「バナッハ空間」の意味・わかりやすい解説
バナッハ空間 (バナッハくうかん)
Banach space
解析学における基本的な問題を無限次元の関数空間における写像の問題として,位相的・代数的方法によって取り扱うためにS.バナッハによって導入された空間。実数の閉区間[0,1]の上で定義された複素数値連続関数の全体をXとすると,Xはふつうの関数の加法と定数(複素数)を掛ける演算でベクトル空間になっている。x0(t)≡0なる関数が0ベクトルであって,それを単に0で表す。関数x∈Xに対して,とおくと,
を満たすならば,となるようなx∈Xが存在する。
一般に,複素数体上のベクトル空間Xの各点xに対して,ベクトルxの長さに相当するノルムと呼ばれる量/x/が定義されていて,上の(1)~(4)を満たすとき,Xをバナッハ空間という。dis(x,y)=/x-y/とおくと,これは距離の性質をもつ。(4)は実数のコーシー列は収束するという性質に相当するもので,空間Xの完備性と呼ばれる。
バナッハ空間の例を三つあげる。
(1)位相空間S上の複素数値有界連続関数の全体C(S)において,ノルムを,と定義する。
(2)1≦p<∞とし実数の区間(a,b)上の複素数値可測関数x(t)で|x(t)|pが積分可能なものの全体をLp(a,b)とし,ノルムを,と定義する。ただし,ルベーグ測度に関してほとんどいたるところx(t)=y(t)ならばx=yとみなす。
(3)1≦p<∞とし,なる複素数列{ξi}の全体をlpとし,x={ξi}∈lpのノルムを,と定義する。
これらC(S),Lp(a,b),lpはいずれもバナッハ空間であり,本項目の最初に述べた例はC(S)のSが閉区間[0,1]の場合である。バナッハ空間の理論や,バナッハ空間を扱う現代解析学の考え方については,〈関数解析学〉の項目を参照。
執筆者:伊藤 清三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報