発生・形態

内科学 第10版 「発生・形態」の解説

発生・形態(視床下部・下垂体)

(1)視床下部の発生・形態
 視床下部は,発生学的に間脳の中間帯の視床下溝腹側部の神経芽細胞が増殖することにより形成され,視床の下部,下垂体の上部に位置する.視床下部の神経核には,下垂体前葉ホルモンの合成・分泌調節に関与しているペプチドや下垂体後葉ホルモンを産生している神経細胞が存在し,正中隆起(median eminence)に向かい神経線維を伸ばしている.正中隆起は3層よりなり,第3脳室の底面である内層の脳室側は微絨毛で覆われた上衣細胞の一種であるタニサイト(tanycyte)が強固に結合した状態で存在し,脳脊髄液の漏れを防いでいる.中間層では,視床下部大細胞群の神経細胞の無髄線維が下垂体後葉に向かっている.外層には視床下部の視索前野,前脳室周囲,室傍核,弓状核などの神経細胞からの無髄神経終末毛細血管叢(capillary plexus)が存在し,軸索輸送された下垂体前葉ホルモン分泌調節物質が神経終末から分泌されて血中に入る.この層にはグリア細胞,タニサイトの突起も存在する.
(2)下垂体の発生・形態
 下垂体は直径約1 cm,重さ0.5~1.0 gの小器官であり,脳底部の蝶形骨により形成されるトルコ鞍(sella turcica)内に位置している.上部は鞍隔膜(diaphragm of sella)により覆われており,視床下部正中隆起とは下垂体茎(pituitary stalk)でつながっている.ヒト下垂体は腺細胞からなり腺性下垂体(adenohypophysis)ともよばれている下垂体前葉と,視床下部から伸びている多数の神経線維とグリア細胞(glial cell)に似た後葉細胞(pituicyte)からなり神経性下垂体(neurohypophysis)ともよばれている下垂体後葉とから構成されている(図12-2-1).
 発生学的に下垂体前葉は原始口窩(stomodeum)の口腔外胚葉から,下垂体後葉は間脳の神経外胚葉から生じる.胎生第4週に原始口蓋が上方に陥入してRathke囊(Rathke’s pouch)が形成され,第5週までにRathke囊は細長くなり,間脳底が腹側へ発育した漏斗(infundibulum)と接触する.第6週になるとRathke囊と口腔との連絡は変性し,消失する.Rathke囊の前壁の細胞は活発に分裂増殖し,下垂体前葉に分化していく.後壁は増殖せず,薄く不明瞭な中間部として残る.漏斗からは正中隆起,下垂体茎,下垂体後葉である神経性下垂体が形成される(図12-2-2). 下垂体の発生分化にはいくつもの因子が関与していることが近年明らかにされている.図12-2-3に示すように,下垂体原始細胞に早期に発現するRathke’s pouch homeobox(Rpx)とpituitary homeobox1(Ptx1),Ptx2がLIM-homeobox3(Lhx3)やLhx4,さらにその後に発現するprophet of Pit-1(Prop-1)などのほかの因子と協調して下垂体細胞分化に重要な役割を担っている.
(3)視床下部-下垂体系の血液循環
 下垂体は上下垂体動脈と下下垂体動脈からの血液供給を受け,正中隆起は上下垂体動脈から血液を供給されている.正中隆起内の神経線維と同部を覆う第一次毛細血管叢の毛細血管との間には血液脳関門が存在しないため,神経終末と血液間をペプチドなどが移行しやすく,視床下部ホルモンが毛細血管内へ分泌されるとともに,逆に血中のホルモンが神経終末に作用するなどして,両者間の情報伝達に都合がよい.毛細血管叢は合流して下垂体門脈となり下垂体茎前面を下垂体前葉に下降し,そこで再び第二次毛細血管叢を形成し,視床下部からの調節因子を下垂体前葉細胞に伝達している.分泌された下垂体ホルモンを含んだ血液は海綿静脈洞,上・下錐体静脈洞,内頸静脈を経て心臓に入り,全身に運ばれる.[芝﨑 保]

発生・形態(甲状腺)

(1)発生
 甲状腺原基は,胎生第3週頃に原始咽頭床の正中部に出現し甲状腺結節(憩室)となり,心臓原基とともに舌骨と喉頭軟骨の腹側を通って頸部を下降し,胎生40日頃に最終位置へ到達する.この下降する際に,甲状腺(thyroid)は次第に側方に膨隆し両葉を形成するが,移動中は基点の舌根部(後の舌盲孔)と甲状腺舌管(thyrogrossal duct)でつながっており,この管は次第に充実性となり消失する(図12-4-1).しかし,この管が残存すると甲状腺舌管囊胞(正中頸囊胞)となる.また,甲状腺の移動の障害は,移動が止まった位置によって舌根部,舌内,舌下,気管内さらに心臓近辺の異所性甲状腺となる.
 一方,第3および第4咽頭囊の背側部の上皮は第4週に増殖し小結節を形成し上皮小体(副甲状腺)となり,第4咽頭囊の細長い腹側部は鰓後体へと発生する.鰓後体は甲状腺と癒合して甲状腺中に散在し,甲状腺でカルシトニンを産生しC細胞とよばれる傍濾胞細胞となる.この際に同時に移動する咽頭粘膜の残存したものが下咽頭梨状窩瘻とされる.
 このような甲状腺の発生には,甲状腺特異的転写因子であるTTF1,TTF2そしてPax 8などがTSHや甲状腺を構成するサイログロブリン,サイロイドペルオキシダーゼ(TPO),ヨウ化ナトリウム共輸送体(NIS),TSH受容体などと協調して関与する.
(2)形態
 甲状腺は,左右両葉と両葉を結ぶ峡部からなる蝶形をした臓器で,内分泌臓器としては最大臓器であり(約15~20 g),老化とともに次第に萎縮する.甲状腺は気管の前面に位置し,峡部は第2ならびに第3気管軟骨付近に位置している.約半数の人では,甲状腺舌管の遠位端の残存した左上方にのびる錘体葉が認められる.左右両葉は側方上方にのび,左右両極は喉頭軟骨にまで及ぶ(図12-4-2).甲状腺の背面には,迷走神経の枝である反回神経があり,右は鎖骨下動脈,左は大動脈弓で反回し,数本の気管・食道枝を出しながら上行し,輪状軟骨の下縁で喉頭に入る.この神経は輪状甲状腺筋以外の喉頭内筋を支配しているため甲状腺の手術のときに傷つけると声の変化や異常をきたす.
 甲状腺の組織像は,1層の基底膜と甲状腺上皮細胞(濾胞細胞)に囲まれた濾胞と間質組織から構成される.濾胞は直径約200 μm程度の不規則な球形の囊で,一側は毛細管に接し,他側の上皮細胞の濾胞内面には微小絨毛(microvilli)が突出している(図12-4-3).濾胞内は,後述するサイログロブリンを主成分とするコロイドで満たされている.間質には,傍濾胞細胞(C細胞)が散在しカルシトニンを産生する.
(3)触診
 甲状腺の触診は患者と相対して行い,両拇指を用いて上方から甲状軟骨そして輪状軟骨を触れ,そのすぐ下方に甲状腺峡部を触診する.峡部の側方に蝶の形をした両葉に対して触診を進める.両葉を探りながら患者に嚥下運動させると,嚥下によって気管が上下するに伴い甲状腺が動くので下方の触診も可能となる.触診では,甲状腺がびまん性に腫大しているのか,結節があるのか,その硬さ,表面の性状,周辺臓器との癒着の有無そして頸部リンパ節の腫脹などを確認する.びまん性甲状腺腫の程度を評価する際には,正確にはエコー検査で測定するが,簡易法として七條分類が用いられることも多い(図12-4-4).[山田正信・森 昌朋]

発生・形態(副腎皮質)

(1)副腎皮質の発生
 副腎皮質は中胚葉由来であり,胎児の未分化性腺と未分化副腎皮質は胎生初期に転写因子であるSF-1(Ad4BP)を発現する共通の原基から発生・分離していく.SF-1は,その遺伝子破壊マウスで副腎,性腺が欠如することから,副腎の発生に必須である.SF-1は,先天性副腎低形成の原因遺伝子として同定されたDAX-1とともに未分化副腎のその後の分化,発達,維持に関与する.
 副腎皮質は胎齢5週頃に泌尿生殖洞に隣接するadrenal grooveという体腔壁の上皮(中胚葉)から発生する.この原基は間葉組織に埋没し被膜に覆われ,胎児層が形成される.胎齢2カ月頃には将来髄質へと分化していく神経外胚葉細胞の侵入を受け,髄質も形成されていく.胎生期副腎は,成人副腎皮質に分化していく外層の恒久層と内層の胎児層から構成され,胎児層は胎齢6カ月頃から急速に増大し,皮質の80%を占める.胎児層からは副腎性アンドロゲンデヒドロエピアンドロステロンDHEA)やDHEA-サルフェート(DHEA-S)などが大量に分泌され胎盤性エストロゲンの基質となっている.胎児層は出産後,急速に退縮し恒久層が残る.恒久層は球状層(帯)(zona glomerulosa),束状層(帯)(zona fasciculata),網状層(帯)(zona reticularis)へと分化する.球状層と網状層は老化とともに萎縮と線維化が進む(図12-6-1).
(2)副腎皮質の形態と血管支配
 副腎皮質は左右ともその後面で腎上極に接する三角形の内分泌腺である.副腎全体の90%は皮質が占める.重量は日本人男性で約6 g,女性で約5 gである.組織学的に3層の細胞から構成されており外側から内側にかけて,球状層,束状層,網状層が存在する.球状層は小型の細胞で細胞質の脂質が少ない.チトクロームP450酵素のうち,アルドステロン合成を行うP450aldが発現しているが,コルチゾールアンドロゲンの合成に必要なP450C17が発現していないので,ミネラルコルチコイドのみを分泌する.束状層は内側に向けて束状の配列を呈し,比較的大型で脂質に富むため淡明となりclear cellといわれ,おもにグルココルチコイドであるコルチゾールを分泌する.網状層はミトコンドリアが多いため好酸性顆粒を含み,リポフスチン顆粒も含むため束状層に比し暗い細胞として観察される(図12-6-2).網状層はコルチゾールとアンドロゲンを分泌する.
 副腎皮質を含め内分泌腺は血管に富む.下横隔膜動脈,大動脈,腎動脈から上,中,下の副腎を栄養する副腎動脈が分枝し,多数の小動脈に分かれて副腎に到達する.副腎皮質から出る静脈血は大部分が1本の中心静脈に達し,右副腎では下大静脈に(右副腎静脈),左副腎では左腎静脈に流入する(図12-6-3).[髙栁涼一]

発生・形態(副腎髄質)

 副腎髄質(adrenal medulla)は交感神経節とともに交感神経-副腎系(sympathoadrenal system)を構成する内分泌臓器であり,カテコールアミン(catecholamine)を分泌する.生体内には,ドパミン(dopamine),ノルアドレナリン(noradrenalineまたはnorepinephrine),アドレナリン(adrenalineまたはepinephrine)という3種類の主要なカテコールアミンが存在する.アドレナリンは高峰譲吉博士によって史上はじめて単離精製されたホルモンである.ドパミンやノルアドレナリンはおもにそれぞれ中枢神経や末梢交感神経において神経伝達物質として作用しているが,アドレナリンはそのほとんどが副腎髄質で合成され,血中に分泌されてホルモンとして作用する.
 発生学的には交感神経節細胞と同様,外胚葉性の神経冠(neural crest)由来であり,中胚葉由来の副腎皮質とは発生原基が異なる.髄質細胞は,胎性初期に神経冠に出現した交感神経原基(sympathogonia)から分化して,副腎皮質原基の内側に移動し副腎髄質となる.副腎髄質は副腎重量の約10%を占め,赤褐色を呈する.黄色の副腎皮質との間は肉眼的にも明瞭な皮髄境界をなしている.[荒井宏司]
■文献
Kliegman RM, et al: Nelson Textbook of Pediatrics, 19th ed, pp1753-1757, Elsevier Saunders, Philadelphia, 2011.
Maris JM: Recent advance in neuroblastoma. N Engl J Med, 362: 2202-2211, 2010.

発生・形態(下垂体後葉)

 下垂体後葉は,神経内分泌細胞の軸索終末に相当する器官である.細胞体は,視床下部の視上核と室傍核に存在し,その神経軸索が正中隆起から下垂体茎を経て終末の下垂体後葉まで至る.下垂体後葉は下垂体前葉に接してトルコ鞍内に位置している.神経内分泌細胞には大神経内分泌細胞と小神経内分泌細胞があり,抗利尿ホルモンであるバソプレシン(ADH, AVP)と子宮収縮ホルモンのオキシトシンを産生する.大神経内分泌細胞は軸索を下垂体後葉まで送り,ここでホルモンを血中に分泌する.分泌されるホルモンはそれぞれの標的器官で作用を発揮する.小神経内分泌細胞はおもに室傍核に存在するが,その軸索は視床下部正中隆起に投射している.放出されるホルモンは神経伝達物質として脳内に分布するが,その一部は下垂体門脈系を介して下垂体前葉ホルモンの分泌にも関与する.
 下垂体系の血管支配は,内頸動脈から分かれた上下垂体動脈が形成する下垂体門脈が主として正中隆起を灌流し下垂体前葉に至る.また内頸動脈から分かれた下下垂体動脈は,下垂体後葉を灌流する毛細管ループを形成する.下垂体後葉ホルモンはこの毛細管ループに放出され,海綿静脈洞を経て体循環に流入する.[石川三衛]

発生・形態(副甲状腺・カルシトニン・ビタミンD)

 副甲状腺は1腺あたり40 mg前後で,通常は甲状腺両葉の上・下極背面に90%近くの例で計4個存在する.しかし3腺しか見いだせない例のほか,5腺以上存在する例も5%あまり存在し,副甲状腺摘除術の際に問題となる.副甲状腺は主細胞,好酸性細胞および間質の脂肪細胞よりなり,PTHは主細胞とoxyphil細胞の両者で合成・分泌される.副甲状腺は周囲の水中から常に十分なカルシウム(Ca)の補給が可能な魚類などには存在せず,両生類以降に出現し,陸上でのみ生息する哺乳類で最も発達している.上副甲状腺の位置にはほとんど個人差がないのに比べ,下副甲状腺は甲状腺下極から胸腺までの広い範囲に分布する. カルシトニンは神経外胚葉由来の,ヒトでは甲状腺C細胞で,哺乳類以外の下等脊椎動物では甲状腺と独立した鰓後体で合成・分泌される.[松本俊夫]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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