体内の液性情報,すなわちホルモンを分泌する組織あるいは器官である。神経系は神経により一過性に情報を伝達するが,内分泌系はホルモンを作り,ため,必要に応じて血管に放出する。それゆえ,この液性情報は体内くまなく行き渡り,また,伝達が持続的である。ただし,情報に反応するのは,ホルモンに対する受容体をもつ組織のみである。神経系と内分泌系とは,相互に影響されることが多く,あいまって生体機能を正常に保つように働いている。これまでに知られている内分泌腺は以下のとおりである。
(1)脳下垂体 脳下垂体は神経下垂体と腺下垂体からなる。神経下垂体は解剖学的に神経葉と正中隆起に区分される。視床下部には,ゴモリの染色法で染まる神経分泌細胞があり,この細胞が軸索をおもに神経葉まで伸ばしている。ここで神経葉(後葉)ホルモンを血中に分泌する。後葉という語は神経葉のみを指す場合と,それに隆起葉を含めることもある。正中隆起は,主として視床下部に分布する神経分泌細胞で,ゴモリの染色法で染まらないものがある。これらの細胞は脳下垂体ホルモン放出ホルモンあるいは抑制ホルモンを生産し,軸索を正中隆起に送り,脳下垂体門脈血管にホルモンを放出し,脳下垂体の機能を調節する。
腺下垂体は,ラトケ囊に由来する部分で,主葉,中葉,隆起葉に分けられる。まとめて腺葉という。中葉と隆起葉のいずれかを欠く動物群がある。主葉と中葉のホルモンは明らかにされているが,隆起葉がホルモンを分泌するかどうかはわからない。前葉という語は主葉のみを指すこともあり,中葉を含めることもある。
→脳下垂体
(2)甲状腺 甲状腺はホヤの内柱と相同の器官といわれる。チロキシンとトリヨードチロニンを分泌する。哺乳類では後述のC-細胞を含んでいる。
(3)鰓後腺(さいこうせん)(または後鰓体) 鰓囊に由来する組織に,神経外胚葉が入り込んで内分泌腺を形成するといわれる。哺乳類ではC-細胞といって,甲状腺の濾胞細胞の間あるいは濾胞間に散在するが,哺乳類以外の脊椎動物では1対あるいは1個となって存在する。ともにカルシトニンcalcitoninを分泌する。円口類には存在しない。
(4)副甲状腺 鰓囊に起源をもつ内分泌腺で,動物によって数は異なる。魚類には存在しない。副甲状腺はパラトルモンparathormoneを分泌する。
(5)膵臓 内分泌性組織はランゲルハンス島にある。発生学的には,十二指腸の突起として生じた膵臓の外分泌性組織の導管あるいは小管の上皮の突起がランゲルハンス島となる。ヤツメウナギの幼生では腸粘膜下組織中にランゲルハンス濾胞という内分泌性組織の小集団がある。グルカゴンを分泌するA細胞とインシュリンを分泌するB細胞がある。ただし,円口類ではA細胞の存在ははっきりしない。哺乳類ではソマトスタチンsomatostatinを分泌するD細胞も見いだされている。
(6)胃腸 胃の幽門部,十二指腸,小腸始部にホルモンを分泌する細胞が散在している。これらのホルモンをまとめて胃腸ホルモン(または消化管ホルモン)といい,その中のいくつかは脳にも検出される。
(7)副腎 副腎は哺乳類ではステロイドを生産する皮質組織とカテコールアミンを生産する髄質組織に分けられるが,下等脊椎動物では,ステロイド生産組織とカテコールアミン生産組織が,別々に存在したり混在したりする。前者は中胚葉性で,後者は外胚葉性である。魚類では両方の組織をいっしょにして間腎ということもある。
(8)精巣 睾丸ともいい,脊椎動物の精巣のライディヒ細胞Leydig cellすなわち間細胞は,ステロイドである雄性ホルモンを分泌する。
(9)卵巣 間細胞からステロイドである雌性ホルモンを分泌する。系統発生学的に考えて,精巣,卵巣は性細胞を形成するのが元来の機能であり,性ホルモンの分泌機能は進化の途上獲得されたものであろう。
(10)松果腺 哺乳類,鳥類の松果体はメラトニンmelatonineを分泌し,腺構造をもつので松果腺とも呼ばれるが,爬虫類,両生類,魚類ではまだ光感覚器官で内分泌腺ではなく,松果体と呼ぶ。メクラウナギ類では存在しないといわれる。
(11)胎盤 胎児性のシンシチウム栄養細胞は生殖腺刺激ホルモンを生産する。妊娠中のウマの血清中に存在する生殖腺刺激ホルモンは,母体の子宮組織から生ずる杯状構造から分泌される。そのほか胎盤からは種々の下垂体ホルモンや性ホルモンが分泌される。
(12)腎臓 旁糸球体細胞はレニンという酵素を分泌する。これが血中のアンギオテンシノゲンに作用して,アンギオテンシンⅠを生ずる。このものは血中の転換酵素により,アンギオテンシンⅡとなる。この物質は血中に入り,血管や副腎皮質に作用するので一種のホルモンとみなされる。
(13)胸腺 鰓囊起源である。骨髄でできたリンパ球が胸腺の中で,その分泌するサイモシンにより抗原反応性細胞(T細胞)となる。サイモシンをホルモンと断定することはまだ早い。
(14)魚類尾部下垂体 魚類脊髄尾部に神経分泌細胞が多数あり,その終末の集合体が脊髄尾部腹面に膨らんだ尾部下垂体を形成している。ウロテンシンⅠ,Ⅱを生産する。尾部下垂体は円口類には存在しない。
(15)スタニウス小体 硬骨魚類の腎臓後部にある小体で,前腎輸管の膨出により形成される。血中カルシウム量を減少させるホルモンを分泌する。
執筆者:小林 英司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
消化器系、呼吸器系、泌尿・生殖器系、脈管系、神経系などの諸器官系にそれぞれ付属して体内に分散している器官(腺)。「ないぶんぴせん」とも読み、内分泌器ともいう。内分泌腺はさまざまなホルモンを産生し、直接、血管やリンパ管に入り、体内を循環する。したがって、内分泌腺組織には分泌物を外部に排出する導管がないのが特徴であるが、内分泌腺組織の内部には、毛細血管が豊富に分布している。内分泌腺としては、下垂体(脳下垂体)、松果体、甲状腺、上皮小体(副甲状腺)、胸腺、副腎(ふくじん)(腎上体)、旁節(ぼうせつ)(大動脈旁体、頸(けい)動脈小体など)、膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島(膵島)、精巣(睾丸(こうがん))の間細胞、卵巣の黄体および卵胞、胎盤などがあげられる。このほかに、唾液(だえき)腺、胃、小腸、脾臓(ひぞう)などもある種のホルモンを生産するといわれる。また、神経細胞にも、本来の刺激伝達の働きのほかに、ホルモンを分泌するもののあることが明らかにされている。ヒトの間脳にある室旁核、視索上核の神経細胞は抗利尿ホルモン、子宮筋収縮ホルモンなどを分泌する。こうした内分泌腺の働きは、位置している部位とは関係のない場合も多い。脳内の松果体、頸部の甲状腺と上皮小体、胸骨の裏面にある胸腺、腎臓上端に付着する副腎などがその例である。
[嶋井和世]
動物体内には種々の内分泌腺がある。脊椎(せきつい)動物では、視床下部、下垂体、甲状腺、鰓後(さいこう)腺、副甲状腺、膵臓、副腎、生殖腺、胎盤、松果体、腎臓、消化管、胸腺などが内分泌機能を営む細胞を含んでいる。無脊椎動物では、昆虫で脳、アラタ体、前胸腺、食道下神経節などが内分泌を行い、脱皮、変態、生殖、休眠といった諸現象を調節している。また、軟体動物の頭足類の脳と視葉をつなぐ部分にある眼腺(生殖巣の発達を促す)、甲殻類のエビやカニの眼柄(がんぺい)にあるX器官(神経分泌細胞群でその軸索の束はサイナス腺に終わる)、触角節や小顎(しょうがく)節にあるY器官が脱皮を調節するホルモンを分泌し、軟甲類の雄の生殖器官の一部に付着する造雄腺(性分化に関与する)などがよく知られている。また棘皮(きょくひ)動物のヒトデの神経組織から生殖巣を刺激する物質が分泌される。この物質は、卵巣の濾胞(ろほう)から卵成熟、配偶子放出を促す物質を分泌させることがみいだされたが、このような物質を分泌する細胞群も内分泌腺といえよう。
[菊山 栄]
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[外分泌腺と内分泌腺]
腺組織がもとの被蓋上皮と導管によって連絡しており,腺細胞から出された分泌物が導管を通って被蓋上皮のほうへ向かうものを外分泌腺exocrine glandという。これに対して,腺組織ともとの被蓋上皮との間にまったく連絡がなくなり,腺細胞から出された分泌物が,そこに分布する血管やリンパ管に出ていくものを内分泌腺endocrine glandという。つまり外分泌腺の場合には素材が血液(厳密には組織液)から腺細胞に摂取され,細胞内で分泌物が合成されて腺腔のほうへ出されるが,内分泌腺の場合は素材が摂取されたのと同じ方向へ分泌物が出される。…
…分泌物を蓄える腺腔をもつ腺と,特別の腺腔をもたず細胞内に分泌物を貯留しているものがある。前者はおもに外分泌腺,後者はおもに内分泌腺であるが,これには例外が多く,たとえば,外分泌腺でも消化管上皮の分泌腺は腺腔がなく,内分泌腺でも甲状腺には腺腔がある。 動物に発達している腺には,その生態や生活史と関連して特殊な機能を発揮しているものがある。…
※「内分泌腺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
一般的には指定地域で、国の統治権の全部または一部を軍に移行し、市民の権利や自由を保障する法律の一部効力停止を宣告する命令。戦争や紛争、災害などで国の秩序や治安が極度に悪化した非常事態に発令され、日本...
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