改訂新版 世界大百科事典 「社会的選択理論」の意味・わかりやすい解説
社会的選択理論 (しゃかいてきせんたくりろん)
social choice theory
社会を構成する各個人が社会状態に対してもつ厚生(主観的満足の数値的尺度)判断に基づいて,社会的厚生判断を形成するプロセスないしルールの構造を論理的に解明する研究分野の理論。経済学,政治学,道徳哲学,数理科学など,多領域の研究者によって精力的に開拓されてきている。
たとえば,単純多数決ルールは,個人的判断を社会的判断へと集計する代表的ルールの一つである。ところでこのルールは,各個人が矛盾のない判断を表明していても,それらを集計した社会的判断が循環的矛盾を生むという〈投票のパラドックス〉の可能性を含むという事実が,古くフランスの啓蒙思想家M.J.A.N.deコンドルセにより発見された。社会的選択理論における古典的成果とされるK.J.アローの一般可能性定理general possibility theoremは,このようなパラドックスは単純多数決ルールにのみ固有の欠陥ではなく,実は民主的な集計ルール一般が避けえない難点であるということを論証したものである。さらにまた,いかなる集計ルールであれ,個人による虚偽の判断表明によりその個人の利益になるように操作される可能性をつねに潜めているという事実も,一般的な論証を受けている。社会的選択理論はかような否定的一般定理を彫琢(ちようたく)するにとどまらず,現実の社会において汎用されるルールの公理的構造を解明したり,ルールに循環的矛盾が発生しないために個人的評価が満足すべき条件を見いだすといった,積極的・肯定的な貢献をも数多く積み重ねてきている。
執筆者:鈴村 興太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報