神争い伝説(読み)かみあらそいでんせつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「神争い伝説」の意味・わかりやすい解説

神争い伝説
かみあらそいでんせつ

2柱の神が争ったという伝説。『日光山名跡志』には日光山と赤城(あかぎ)山の争いを伝える。赤城明神が大むかでに化して雲に乗り、大蛇と化した日光権現(ごんげん)を攻めるので、猿丸太夫(だゆう)が頼まれて弓で赤城を追ったという話。赤城明神の氏子は日光にけっして詣(もう)でず、一方、日光の武射祭(むしゃさい)では赤城の方向へ弓を射る。富士山にも多くの神争いの伝承がある。富士が浅間山と煙比べをしたり、伊豆の御嶽(みたけ)山とそれぞれ木花開耶媛(このはなさくやひめ)と磐長媛(いわながひめ)に化して容姿比べをしたという伝説もある。また『常陸国風土記(ひたちのくにふどき)』筑波(つくば)郡の条には、蘇民将来(そみんしょうらい)型の伝説を伝えている。御祖神(みおやがみ)が国々を巡り、日暮れに富士山に一夜の宿を求めるが、新嘗(にいなめ)の物忌みで拒絶され、筑波山に巡って行くと歓待されて泊まることができる。神は喜んで、以後富士には雪ばかり降らせたのに対し、筑波のほうは、春秋に木々を茂らせ男女が楽しく遊べる山としたという。京都の伏見稲荷(ふしみいなり)と北野天神は仲が悪く、同じ日に参詣(さんけい)をしてはならぬという伝承があり、その理由は、菅原道真(すがわらのみちざね)の霊が雷となって稲荷の禁中の当番の日に守護をさせなかったためである、と『渓嵐拾葉集(けいらんしゅうようしゅう)』などに伝えている。また、縁日の日の一方が晴天であると他方のそれをかならず雨天にして、いずれか勝ち負けを定めるという伝承があって、京都では天神様とお大師(だいし)様の縁日をそれにあてている。東京では、虎ノ門(とらのもん)の金毘羅(こんぴら)様と日本橋蠣殻(かきがら)町の水天宮がその競争者という伝承がある。これらの伝説は、古くは事物起源の巨人伝説に類するものであったのであろう。そして産土神(うぶすながみ)を氏神として守っていた時代から、その信仰圏が拡大され統合されていくにしたがって、信ずる神仏も定めなければならないようになり、参拝者の競争が、この種の神の優劣を決める伝承を生んでいったと思われる。

[渡邊昭五]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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