精選版 日本国語大辞典「稲荷」の解説
いなり【稲荷】
[1] 〘名〙 (「稲生(いななり)」の転という)
① 五穀を司る神として信仰された宇賀御魂命(うかのみたまのみこと)のこと。おきながみ。
※秦山集(1728)「稲荷、稲成之訓、五穀の神也」
② 狐の異名。宇賀御魂命の別称の御饌津神(みけつかみ)を三狐神と書き誤ったこと、稲荷の本地、荼枳尼天(だきにてん)が狐霊の夜叉(やしゃ)であるとされたこと、また狐に対する民間信仰などが結びつき、狐が稲荷明神の使いと信じられるようになったことによる。
※雑俳・軽口頓作(1709)「こらへてゐる瓜をくらへどいなり様」
③ 油揚げの異名。油揚げは狐の好物として稲荷の供物に供える風習がおこったところからいう。〔日本隠語集(1892)〕
④ 「いなりずし(稲荷鮨)」の略。
※評判記・役者口三味線(1699)京「ゐなりの二つづめでは、おなかがさびしうなって」
⑤ 「いなりまち(稲荷町)(一)②」の略。
※雑俳・柳多留‐三二(1805)「もふせんで死のを稲荷ねがふなり」
⑥ (稲荷社に立て並べた旗に似るところから) 旅芸人が町回りをするときに立てる細長い旗。
⑦ 油揚げを入れたうどん。きつねうどん。うどん屋の隠語。
※商業符牒袖宝(1884)うどんや「あぶらげ入をいなり、きつね」
[2]
※枕(10C終)一五八「いなりに思ひおこしてまうでたるに」
[二] 謡曲。四番目物。廃曲。作者不詳。別名「和泉式部」。稲荷山に詣でた和泉式部を見て恋に陥った男の霊が娘の小式部に憑く。
[補注]((一)について) ①は、もと山城(京都)の帰化豪族、秦氏がまつる神であったが、平安遷都以後真言密教と習合し、荼枳尼天(だきにてん)をもって稲荷の神体とするに至り、これを伏見の稲荷山にまつって、稲荷権現と称した。のちに巫女(みこ)、術者などによる予言、占い、祈祷などが盛んに行なわれ、江戸時代には種々の稲荷信仰が流行した。
とう‐か タウ‥【稲荷】
〘名〙 (「稲荷(いなり)」の音読み)
① 稲荷の神。
※新聞雑誌‐三四号・明治五年(1872)三月「歌に、あさやまはやま羽黒の権現をかまのかみさま当家は稲荷(トフカ)の大明神」
② 狐の異名。
※物類称呼(1775)二「世俗きつねを稲荷(いなり)の神使なりといふ、故に稲荷の二字を音にとなへて稲荷(トウカ)と称するなるべし」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報