科学者の不正(読み)かがくしゃのふせい

知恵蔵 「科学者の不正」の解説

科学者の不正

最近の大きな話題のひとつに、科学者による論文捏造などの不正行為がある。韓国ソウル大学でのヒトES細胞の作成に関する黄禹錫(ファン・ウソク)教授の問題は世界的にも大きく報道された。また、東京大学のRNA干渉研究に関する論文や、大阪大学の肥満に関する遺伝子研究についての論文捏造問題などいくつかあげられる。 科学者による論文やデータの捏造はいまに始まったものではなく、古くは古代ギリシャから既に行われていたといわれている。科学史上でも有名な捏造事件が多くあることはよく知られている。歴史上科学者によって多くのデータ捏造が繰り返されてきたわけだが、それを防止する対策は今までほとんどとられていなかった。 米国では生命科学分野を中心とした科学者の不正行為を防止するために研究公正局が設けられている。そこではガイドライン策定、申し立て(告発)の受け付けとそれに基づく調査、結果の公表および普及、啓発事業を目的とした活動が行われている。また、ヨーロッパ諸国や中国など様々な国で、科学者の不正行為の防止策に取り組んでいる。 日本でもやっと科学者の不正行為に目を向け始め、日本学術会議では2003年6月に「科学における不正行為とその防止について」という報告書を出した。しかし、具体策については今後の課題とされている。生命科学は不正行為の発見が困難な場合が多く、疑わしい場合は専門家による委員会機関による調査が必要である。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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