日本大百科全書(ニッポニカ) 「立体印刷」の意味・わかりやすい解説
立体印刷
りったいいんさつ
stereoscopic print
平面上の画像を立体的に見えるようにした印刷方法や印刷物。人間は右目と左目を使って物体を見ることにより立体感を得ることが知られているが、その原理を利用している。カラー写真の発達と精密な写真製版技術、プラスチック製の特殊レンズの製造が従来より精度よく安価にできるようになったことにより大量生産が可能になった。
立体印刷の技術としては、ホログラフィーholography、アナグリフanaglyph、レンチキュラーlenticularなどがある。
ホログラフィー方式では、光が波である特性を利用し、レーザーを使って物体から反射した光波を干渉縞(じま)の形で記録する。波面の情報を観察すると立体的に見える。この技術を応用したホログラム印刷は、クレジットカード、紙幣や金券・チケット類、ID証類、ブランド・タグなどの偽造防止用途のほか、雑誌や映画カタログなど幅広く利用されている。
アナグリフ方式では、右目用と左目用に別々のカメラで撮影した物体の画像を赤、青の2色で印刷する。左右の目にそれぞれ赤、青のフィルターをかける(専用の「赤青メガネ」を用いる)と、印刷物は立体的に見える。写真集・ポスター・雑誌、新聞などに使われた例がある。
レンチキュラー方式では、細かな多数のかまぼこ型の凸レンズが何列にも並んだレンズシートの裏側に、複数の写真等を合成させた画像を貼り合わせる(または印刷する)。たとえば、三方向から撮影した画像(右から撮った画像A、中央から撮った画像B、左から撮った画像C)を細長く短冊状に分割し、分割された画像A、B、Cの一つ一つを交互に並べる(A1・B1・C1、A2・B2・C2、…)。そして分割画像(たとえばA1・B1・C1)と一つの凸レンズが合致するように貼り合わせる(またはシートの裏面に印刷する)。これを見ると、右の目と左の目の結ぶ角度によって印刷物は立体的に見える。レンチキュラー方式では、このような3D効果のほか、アニメーション効果(少しずつ異なる画像を多数枚組み合わせることによって画像が動いて見える)や、チェンジング効果(まったく異なる複数の画像を組み合わせることによって画像が変化して見える)なども出すことができる。3Dとチェンジングなど複数の効果を組み合わせることも可能となっている。目を引く印刷物としてカードやディスプレーなどによく使われる。その他、無数の微細な丸型のレンズシートとモアレの原理を利用して、パターン模様が浮き沈みして(立体的に)見えるようにした技術もある。
[中村 幹]