映像に三次元の奥行感を加え、立体効果をもたせる映画。英語の3 Dimentional Picture(三次元映画)を略して3D(スリーディー)映画ともいう。人間の両目の視差を利用して数十センチメートル離して並べた2台の映画カメラで同一の映像を撮影、その二つの映像を重ねて映写し、観客は赤と青、または両目の偏光角が直角をなす偏光眼鏡をかけて見ることにより立体映像が得られる。研究の起源は映画創生期の1900年ごろにさかのぼるが、映画のトーキー化、色彩化などで、歩みが停滞した。1953年からの3年間に流行し、アメリカで偏光眼鏡によるナチュラルビジョンの『ブワナの悪魔』(1952)、『肉の蝋人形(ろうにんぎょう)』(1953)など29本の劇映画がつくられた。1970年代になって1台のカメラ、映写機、1本のプリントで二つの映像を収容する簡略化した映画カメラと映写アタッチメント(付属品)が開発され、ふたたび成人映画などに流行、アンディ・ウォーホル監修の怪奇映画『悪魔のはらわた』(イタリア、1973年)、時代劇アクション映画『空飛ぶ十字剣』(台湾、1977年)、恐怖映画『13日の金曜日PART3』(アメリカ、1982年)などがつくられた。立体感や臨場感にあふれているが、画像が暗く、粗く、左右画像のダブリや、目が疲れやすいなどの欠点があった。日本では1953年(昭和28)に東宝と松竹が20分ほどの短編を試作したのに始まり、成人映画2本(1970~)に利用された。
一方、70ミリ・プリント1本を用い、強力な光源をもつ映写機1台で映写する明るい高画質3Dが万国博覧会、科学博覧会で試用され、ジョージ・ルーカス製作、フランシス・コッポラ監督、マイケル・ジャクソン主演の偏光眼鏡式『キャプテンEO』(1986、東京ディズニーランドの特設劇場で1987~1996上映)が画期的成功を収めた。カナダのアイマックス社は、ひとコマ当り3倍の大面積をもつ左右2本の70ミリ・プリントを同時に重ねて映写し、赤外線の信号で開閉する電子シャッター式液晶フィルターを内蔵するヘッド・セットをかけて見るアイマックス独自の3D方式を開発、1978年より実用化して実写記録中編を製作、北アメリカで興行した。
日本ではジャン・ジャック・アノーJean-Jacques Annaud(1943― )監督の劇映画『愛と勇気の翼』(1995)を1996年(平成8)に大阪の天保山(てんぽうざん)サントリー・シアター、ついで東京アイマックス・シアター(新宿高島屋タイムズスクエア)で公開、大面積3D劇場を常設化した。アメリカでは、ロバート・ゼメキス監督の『ポーラー・エクスプレス』(2004)など3Dアニメーションの進化が、一般映画の3D製作を刺激し、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(2009)の世界的ヒットにより、2010年にはティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』など続々とヒット作が生まれた。日本でも清水崇(しみずたかし)(1972― )監督の『戦慄(せんりつ)迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』(2009)などがつくられた。ドイツでは、ウェルナー・ヘルツォークの『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』(2010)、ビム・ベンダースの『Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011)などのドキュメンタリーに用いられて芸術的な成果を上げている。こうした3D映画活性化の背景には、さまざまな技術の開発・改良がある。アクティブシャッター型液晶(LCD)レンズを利用するXpanD(エクスパンド)3D方式、円偏光方式を受け継ぐRealD(リアルディー)、色の波長により2種の画像を識別するフィルターを利用したドルビー3Dなどの方式が普及している。またコスト面の解決のために、2Dで撮影した映像を3Dに変換する2D-3D変換も開発された。3D撮影の物理的制約がなく、変換技術の向上も刺激となって、スティーブン・スピルバーグ(『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』2011年)やマーティン・スコセッシ(『ヒューゴの不思議な発明』2011年)らも3Dに挑み、2012年には『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』、『タイタニック』など旧作の3D化も試みられるようになった。
なお、1987年(昭和62)より日本ビクターが開発したVHDビデオディスクによる3D方式は、テレビに左右の映像を交互に再生し、電子シャッター式液晶フィルターを用いて左右画像のダブリを著しく改良した家庭用3Dである。この原理が、3Dテレビに発展し、2010年(平成22)には3D用モニターが各社から発売され、3D元年とよばれた。
[日野康一・出口丈人]
『尾上守夫・羽倉弘之・池内克史著『3次元映像ハンドブック』(2006・朝倉書店)』▽『大口孝之著『コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション』(2009・フィルムアート社)』▽『リサ・フィッツパトリック著、菊池由美・ないとうふみこ訳『The ART of AVATAR――ジェームズ・キャメロン『アバター』の世界』(2009・小学館集英社プロダクション)』
〈3-D(スリーデイー)映画〉とも呼ばれる。なお,3-Dはthree-dimensional(3次元の)の短縮である。われわれが物を立体として認識するのは,それを左右の目で,少し違った角度からとらえているからであり,その原理に従って人間の両眼の視差と同じ写角で同時撮影した2本のフィルムをスクリーンに同時に上映し,そのダブって映っている映像を観客が左右に見分けることで立体感を得るようにしたものである。
最初は1935年にジャック・ノーリングが発明,〈オーディオスコーピックス〉と名付けてMGMが安っぽいスリラー・コメディの短編を公開した。左右の映像を赤と青で1本のフィルムに焼き付け,それを青・赤のフィルター眼鏡をかけて見るという,いわば同色の映像を打ち消して反対色の映像を左右の目にふりわける方式であった。モノクロ作品にしか使えないし,目が疲れる欠点があるものの,その後も《大アマゾンの半魚人》(1954。日本では普通版で公開)などで用いられた。
本格的なカラー立体映画は,ミルトン・ガンズバーグが発明したポラロイド(偏光)眼鏡を用いるもので,初めて使用された1952年の《ブワナの悪魔》は,全米30の都市で封切られ,3ヵ月足らずで500万ドルの興行収入をあげた。これは,同調回転する2台のカメラで左右の映像を撮影し,同調した映写機で同時映写するのだが,このとき両方の映写レンズの前に相互の光軸が直角になった偏光フィルター(簡単にいえば,光線のすだれと思えばよい)を装着する。それをポラロイド眼鏡でふりわけて見ると立体感が得られるというものである。立体効果としては長足の進歩で,《肉の蠟人形》(1953),《ダイヤルMを廻せ!》(1954。日本では普通版で公開)などはその代表作だが,2台の映写機を同時に回すので,途中でフィルムを掛けかえるための休憩が必要という不便が生じ,片方のフィルムが折損したとき,もう一方もそのぶんだけカットして画面を合わせねばならぬというめんどうもつきまとった。そのため立体で撮っても普通版で公開されるケースも多く,まもなく作られなくなった。
ところが70年代に入って,1コマを分割して,左右の映像を1本のフィルムに収める方式が開発されるとともに復活,まずポルノや香港活劇に用いられてから,《13日の金曜日PART3》(1983),《ジョーズ3-D》(1983)などのメジャー系のホラー映画がこの方式で登場した。この方式の欠点は,フィルムの実効面積が半分以下のサイズになるため,光量が不足し,映写画面が薄暗くなることである。なお,ソ連で開発された眼鏡不用の立体映画は,細かいトタン板のような縦筋の,波状スクリーンに映写し,その反射によって左右の目に映像をふりわけるものだが,頭をまっすぐシートに固定しないと立体効果が薄れるという。
執筆者:森 卓也
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