筆軸印(ふでじくいん)ともいう。毛筆の軸(竹製)の頭に墨をつけて(朱肉の使用例はない)文書に証印として押したもの。サイン(自署),花押(かおう)に代用する庶民階級の署名方法には略押(りやくおう)があるが,そのほかには画指(かくし),拇印(ぼいん),手印(ていん)などが行われて,文盲の人,または幼少の人の署名代用とされた。筆印もその一種。筆軸そのままの丸印が普通であるが,中には筆軸の丸印に加筆して花押様に意匠を加えたものもある。筆印は鎌倉時代の後期に初見があるが,中世以降より近世末期まで普及した庶民階級の略式署名代用の証印である。法的証拠は認められないが,現代にも便法として生きている。
執筆者:荻野 三七彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…《御成敗式目》には〈謀書罪科事〉の条に武士の所領没収に対して,庶民の刑罰は〈火印を面(おもて)におす〉と規定している。このほか花押の場合に庶民が略押をおしたように,筆印(ふでいん)と称して筆軸に墨をつけて文書におす略式押印も行われた。これは鎌倉時代中期以降に例証がみられる。…
…なお,花押と略押を区別する基準は必ずしも明確ではなく,漢字を極端に草体化したものや,その変形を略押に含める見方もある。 花押の代用には,略押のほかに画指(かくし),拇印(ぼいん),つめ印,筆軸印(筆印)がある。画指は令制(戸令七出条)に由来して歴史は古いが,その使用例は少なく,また13世紀中ごろ以後は使用例が見られず,拇印も古代・中世には使用例が少なく,つめ印が盛行するのは近世に入ってからで,中世を通じて広く用いられたのは,略押と筆軸印であった。…
※「筆印」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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