略押(読み)リャクオウ

デジタル大辞泉 「略押」の意味・読み・例文・類語

りゃく‐おう〔‐アフ〕【略押】

花押かおうの代わりに用いられた簡単な符号文字花押も書けない者が代わりに書いた◯や△などの符号。

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精選版 日本国語大辞典 「略押」の意味・読み・例文・類語

りゃく‐おう‥アフ【略押】

  1. 〘 名詞 〙 花押(かおう)の簡略なもの。無筆の者が、花押のつもりで、丸印や×印のような簡単な印を描いて、署判したもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「略押」の意味・わかりやすい解説

略押 (りゃくおう)

花押(かおう)の代りに用いられた簡略な記号,符号。略花押ともいい,古文書学上の名辞。花押を署記するだけの執筆能力のないもの,花押をもたない女性,未成年者などの間に用いられた。12世紀前半の大治~保延(1126-41)ごろから現れ,中世を通じて,起請文(きしようもん),土地売券(ばいけん)などに多く用いられて17世紀に及んだが,印章(印判)使用の風が16世紀後半から広く庶民の間に広がり,江戸時代に入って,百姓町人が公式の届書に印章を押捺するようになると,17世紀中ごろ(寛永期)を境として,庶民の花押使用が激減し,それにともなって略押の使用例も急速に減少し,やがて消滅する。

 略押の形状は多様であるが,丸や三角楕円形(横型)などの図形的なものと,片仮名〈ナ,ヌ,フ,メ,ワ〉,平仮名〈く,こ,ち,つ,て,と,の,り〉などの文字に類似したものが,比較的多く用いられた。なお,花押と略押を区別する基準は必ずしも明確ではなく,漢字を極端に草体化したものや,その変形を略押に含める見方もある。

 花押の代用には,略押のほかに画指(かくし),拇印ぼいん),つめ印筆軸印筆印)がある。画指は令制(戸令七出条)に由来して歴史は古いが,その使用例は少なく,また13世紀中ごろ以後は使用例が見られず,拇印も古代・中世には使用例が少なく,つめ印が盛行するのは近世に入ってからで,中世を通じて広く用いられたのは,略押と筆軸印であった。
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