改訂新版 世界大百科事典 「粉末圧延」の意味・わかりやすい解説
粉末圧延 (ふんまつあつえん)
powder rolling
粉末を,圧延機のロール間隙へ連続的に供給して圧延することにより板状の成形体とし,次にこの成形体に対して焼結と圧延の工程を施すことによって板材を製造する方法。粉末が流動性をもつために圧延の際にロールと粉末との間ですべりが生じやすい。そこで,このすべりを避けるため,ロール間隙を小さくしなければならず,したがって薄板の製造にしか適用できないが,得られる板材には,普通の板材でみられる圧延異方性がない。また本方法を用いると,難加工材,クラッド材,複合材などを作ることが可能であるとともに,一般の溶解・圧延法に比べ工程の節減と材料歩留りの向上を図ることができる。
本方法は1902年のドイツ特許にはじまるが,第2次大戦中ドイツにおいて鉄粉から多孔質の弾帯用鉄板を作ることに成功したことが50年に公表され,これを契機として,50年代に本方法の基礎,応用の研究が世界中で盛んに行われた。対象となった粉末は鉄,銅,ニッケル,チタン,ジルコニウム,ステンレスなどであるが,従来の方法に比べて生産速度が小さくなる場合が多く,実用化された例は少ない。現在も粉末圧延で作られているのはカナダの5セント・ニッケル硬貨用素板だけといわれる。しかし,最近,省エネルギー,省資源がきわめて重視されるようになったことから,再び見直される傾向にある。
執筆者:林 宏爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報