精選版 日本国語大辞典 「圧延」の意味・読み・例文・類語
あつ‐えん【圧延】
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回転している1対のロールとよばれる円柱体の間隙(かんげき)へ金属素材をかみ込ませ、ロールからの圧力で素材の長さを延ばし、断面積を縮小させる金属加工法。金属材料には適度の力を加えると破壊することなく永久変形する性質(塑性)があることを利用しており、鍛造などとともに金属の塑性加工法の一種である。厚鋼板、薄鋼板、棒鋼、形鋼(かたこう)、継目なし鋼管などの鋼材をはじめ、各種金属や合金の箔(はく)、板、棒、管などがこの方法で製造されている。圧延の際の素材の温度により熱間圧延(熱延)、冷間圧延(冷延)に大別される。鉄鋼工場で鋳塊を半成品の鋼片に圧延する分塊圧延は熱間圧延の代表例である。熱間圧延では、金属が加工による硬化を生じない再結晶温度以上の温度で圧延が行われるから、比較的小さいロール圧力で大きな変形加工ができる。分塊圧延では、鋳塊の中にある気泡や粗大結晶組織をなくして均質な組織の鋼片とすることができる。ただし熱間圧延では、圧延中に高温の素材表面が大気中の酸素と化合して酸化膜(ミル・スケールmill scale)を生ずるから製品の肌は粗く、金属光沢はなく、寸法精度も悪い。冷間圧延は室温のままの素材を圧延する方式で、製品の表面は平滑で、金属光沢があり、寸法精度もよい。薄鋼板製造用の冷間ストリップ・ミルstrip millはその代表例である。冷間圧延と熱処理とを適切に組み合わせることにより、圧延製品の結晶組織を改善して優れた機械的、物理的性質を与えることができる。
[志村宗昭・原善四郎]
いま長方形断面の素材を圧延する場合を考える。圧延前後の素材の厚さと幅をそれぞれh1、h2及びb1、b2とする。(h1-h2)を圧下量、(h1-h2)/h1を圧下率、(b1-b2)を幅ひろがりという。圧延中に素材とロールとが接触している面積は、ロール径および圧下量が大きいほど大きい。この接触面積とロール、素材間の摩擦係数および素材の変形抵抗(降伏応力)がそれぞれ大きいほど大きな圧延圧力が必要になる。したがって、硬くて変形しにくい材料や薄板の圧延には小径ロールを用いるとよい。しかし小径ロールは圧延中に湾曲して製品板の寸法精度が悪くなったり(板が両端より中央で厚くなる)、ロールが折損することもある。そのため直接に素材に接触するロール(作業ロール)の、素材と反対側に支持ロールを配置して作業ロールを補強することが考案され、各種の多重(多段)式圧延機が生まれた。圧延機の入口側では素材はロール表面よりも遅く移動し、出口側ではその逆である。素材とロール表面の両移動速度が一致する点を中立点という。ロールおよび素材にかかる圧力は中立点で最大である。圧延中に素材の前方、後方のいずれか、また双方から張力をかけると、中立点の位置が移動し、圧力が減少するという効果がある。帯状薄板の冷間圧延ではこの張力付加圧延が適用されている。
[志村宗昭・原善四郎]
ヨーロッパで最初に実用された金属圧延機は中世教会のステンドグラス用鉛縁(H形断面)を成形加工する手動圧延機であったらしい。レオナルド・ダ・ビンチは鉛縁用およびスズ板用の2種の圧延機のスケッチを残している。16世紀前半からイタリアで、ついでフランス、オーストリアで銀貨素材板を手動圧延機で圧延することが始まり、17世紀後半および18世紀前半には形鉄および鉄板の熱間圧延がそれぞれドイツおよびイギリスで始まった。動力はいずれも水車であった(圧延機をミルとよぶのはこのためである)。ヘンリー・コートの錬鉄製造法(1784)の要点は、石炭反射炉で製錬した錬鉄をただちに蒸気力駆動の圧延機で圧延することにあり、同法で製造された錬鉄の形材やレール、鉄板が産業革命時代の新工業材料となった。
19世紀前半には蒸気力駆動の二重式圧延機によるブリキ板用薄鉄板の製造がイギリスで盛んになり、船底保護用などの広幅銅板も圧延されるようになった。19世紀中期のベッセマー転炉などの溶鋼製錬法の発明で鋼の大形鋳塊が製造可能になると、それを各種形状の鋼片に圧延するために大馬力の分塊圧延機が現れ、鋳塊が冷却しないうちに鋼片への圧延が完了するように往復両行程で圧延が可能な三重式圧延機も開発された。19世紀後半から電動機が圧延機にも大きな進歩をもたらした。厚板圧延機では、各1対の水平・垂直ロールを備えて厚さ、幅ともに正確に圧延できるユニバーサル圧延機がイギリスに出現し、造船用厚板の製造に威力を発揮した。薄板圧延機では、黄銅の帯状薄板をコイルに巻き取りつつ冷間圧延する巻取圧延機がイギリスで実用化された。20世紀に入って、缶詰用ブリキ板や自動車車体用の薄鋼板の需要が急増したアメリカでは、ストリップ・ミルとよばれる広幅帯鋼(ストリップ)の連続圧延方式が1920年代以降急速に発展した。これは、縦列に配置した数台の圧延機(主として四重式)に帯鋼素材を通過させて連続的に圧延し、出口で製品帯鋼をコイルに巻き取る方式である。製品の薄鋼板は表面仕上げや深絞り性が良好で、自動車車体などをプレス加工するのに適している。
日本には1941年(昭和16)最初のストリップ・ミルが導入されたが、本格的な発展は第二次世界大戦後であった。戦後は自動制御理論や塑性力学など工学理論も発展して、1960年代から自動板厚制御技術やロールに曲げを加えることによって圧延板の断面状形を制御するロール・ベンディングroll bending技術も開発され、計算機制御も1970年代から実用され、日本のストリップ・ミルは高度の技術水準に達した。今日では幅2メートル以上の広幅薄鋼板が熱間圧延では毎分1300メートル、冷間圧延では毎分2500メートルの圧延速度で生産されている。
[志村宗昭・原善四郎]
圧延機は作業ロール、支持ロールを含めたロールの総数(n)によって二重式、三重式、四重式、六重式、多重式などに分類される(n段式ともいう)。またロールの配置形式によって分類され、水平ロールの外に垂直ロールを備えたものはユニバーサル圧延機とよばれ、大径の支持ロールの外周に多数の小径ロールを遊星状に配置したものはプラネタリ圧延機とよばれる。
二重式圧延機は最古の形式のもので、ストリップ・ミル出現以前には、この圧延機の出口側、入口側に工員がいて、出てくる圧延板を入口側へ手渡しで戻して圧延を繰り返すという方法(プル・オーバーpull over方式)で薄鉄板が製造されていた。現在では二重式逆転圧延機が三重式圧延機とともに分塊圧延機に用いられ、また熱間ストリップ・ミルの粗圧延機としても用いられている。四重式圧延機は軟鋼、銅、アルミニウムなどの広幅板材の圧延に適し、厚板圧延機や熱間、冷間ストリップ・ミルの主力圧延機となっている。六重式以上の多重式圧延機は、ステンレス鋼板やケイ素鋼板などの硬い材料の冷間圧延や箔に至る極薄板の圧延用として考案されたもので、両端軸受付きの12段ないし32段ロールを備えたローン圧延機(1923発明)、6段、12段ないし20段の軸受なしロールを配置したゼンジミア圧延機(1934発明)などがあり、日本では後者4台を縦列に配置した冷間ストリップ・ミルがステンレス鋼板生産用に運転されている。ユニバーサル圧延機は最近では大形形鋼の圧延機としても重用されている。プラネタリ圧延機は合金鋼などの硬質材料板を1回のロール通過で90%以上の圧下率まで圧延でき、1966年(昭和41)には日本に世界最大級のものが建設された。
丸鋼を鋼管に穿孔(せんこう)すると同時に圧延作用もあるマンネスマン鋼管圧延機(穿孔機ともよばれる)は、継目なし鋼管製造法として有名なマンネスマン式鋼管製造法の主力機となっている。その構造と原理は鋼板圧延機とは異なり、互いに角度をなして配置された同方向回転の左右1対の二重円錐(えんすい)形ロールの間へ丸鋼を挿入するとき、その中心軸に形成される孔をマンドレルmandrelとよばれる心金(しんがね)によって拡大することによって丸鋼を鋼管に穿孔、圧延する。マンネスマン式鋼管製造法では、この穿孔機でつくった素管をさらに各種の鋼管圧延機で仕上げ圧延する。
[志村宗昭・原善四郎]
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…浮流によって運搬される物質は浮流物質(おもに河川水中のもの),懸濁物質または浮遊砂などと呼ばれる。掃流tractionは砕屑粒子が流れの中を底面に沿って運搬される形式で,転動rolling,滑動sliding,躍動saltationという3種類の運搬形式を総称したものである(図1)。掃流によって運搬される物質は掃流物質と呼ばれる。…
※「圧延」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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