粉末または圧粉体(粉末を圧縮して所定の形状としたもの)を,粉末成分の融点以下の温度で加熱した場合,粉末粒子の相互の接触面が接着し,加熱時間の増加とともに圧粉体が収縮・緻密化する現象を焼結という。ただし粉末の成分が2種またはそれ以上の場合,量が少ないほうの成分の融点が,量の多いほうの成分のそれよりも低いときには加熱温度を両者の中間の値とすると,少ないほうの成分は融解して液相となるが,この場合に生じる緻密化現象はとくに〈液相存在下の焼結〉または〈液相焼結liquid sintering〉と呼ぶ。そして,全成分がすべて固相状態で起こる焼結を〈固相焼結solid sintering〉と呼び,両者を区別している。
固相焼結の機構は一般に以下のように考えられている。まず粉末の成分が1種の場合には,加熱によって粉末粒子間の接触部に原子間結合を生じ,やがて図1に示すように粒子間にネックが形成されるが,ネック表面の曲率が負であるためにネック表面には引張りの表面応力が生じる。この力によってネック表面近傍における原子空孔の濃度は粒内のそれよりも大となり,したがって原子空孔はネックから粒内へ向かって移動し,原子は逆に粒内からネックへ向かって移動(拡散)する。すなわち粒内からネックへ向かって質量移動が起こり緻密化が進行すると考えられている。このような焼結機構は体積拡散機構といわれるが,微粉では表面拡散による質量移動も焼結に対して大きな役割を果たすとされている。このほか粘性流動による質量移動も,ガラスなどの焼結では起こると考えられている。
2種以上の成分からなる粉末の固相焼結においては,成分間の相互溶解度,相互拡散係数,化合物形成の有無などの諸要因の影響が新たに入り込むため,現象はきわめて複雑となる。たとえば,各成分の拡散速度の差に基づいて,拡散しやすい成分の粒子中に空隙を生じ,このため焼結体が逆に膨張することもある。
一方,液相存在下の焼結においては,液相の固相に対する接触角が90度以下であること,すなわち液相が固相にぬれることが緻密化の条件となる。この条件が満たされるとき,図2に示すように固相粒子間に在る液相の表面は凹となり,このため液相表面には,上記の固相焼結におけるネック表面と同様,引張りの表面応力を生じ,この力によって液相は粒子間の空隙を埋めるように流動する。この液相の流動に伴って固相粒子は互いに引き寄せられ,焼結体は急速に収縮する。このとき,固相粒子を最密充てんしたときに生じる空隙量に比べて液相量が多い場合には,一般にすべての空隙は液相によって埋められ焼結体は完全に緻密化する。ただし,固相粒子間の接着が起こっているときは,図3に示す液相と粒子間界面の2面角が0度でないかぎり液相は接着面に浸入できず,完全な緻密化は起こらない。空隙量に比べ液相量が少ない場合には,液相流動後にも空隙が残るが,固相が液相に溶解度をもつときは加熱時間とともに緻密化が進行する。すなわち,固相粒子の液相中への平衡溶解度は粒子表面の曲率半径が小さいほど大きいことから,粒子の凸部から凹部へ,あるいは小粒子から大粒子へ向かっての質量移動が液相を介して起こり,このため粒子の形状と寸法の変化を伴いながら緻密化が進行する。
焼結体の緻密化速度は,固相焼結の場合は,一般に原子の拡散係数が大きい物質ほど大となる。すなわち緻密化速度は金属に比べるとイオン結合結晶のほうが小さく,また共有結合結晶では緻密化はほとんど起こらないのが普通である。液相存在下の焼結における緻密化速度は固相焼結のそれに比べて一般にきわめて大きい。そしていずれの焼結でも,微粉であるほど,また焼結体に高い圧縮力をかけるほど緻密化速度は大となり,かつ焼結体の密度も大となる。焼結時の雰囲気も緻密化に対して大きく影響する。なお,この焼結現象を利用して高融点合金,超硬合金,含油軸受などの各種材料が作られるが,この技術を粉末冶金という。
→粉末冶金
執筆者:林 宏爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
細かい粉末を高温に加熱したときに、融点以下の温度でも粉の粒子が互いに付着して固まること。粉末冶金(やきん)や窯業のもとになる重要な現象であり、陶磁器や種々の工業材料をつくるのに利用される。焼結がおきているときには粒子どうしの接触部で原子が粒子の表面や内部を通ったり昇華したりして活発に動いており、加熱を続けるうちに粒子間のすきまを埋めるように原子が堆積(たいせき)し、初めはスポンジ状を呈していたものも孔(あな)の少ない緻密(ちみつ)な塊になっていく。雪が0℃以下の温度でも付着して固まっていくのも一種の焼結現象である。また鉄鉱石を粉砕したときにできる細かい粉鉱石は、そのまま溶鉱炉に入れると棚吊(つ)り(鉱石がシャフトの局部にひっかかって下降しなくなる状態)などをおこし操業に支障をきたすので、それを避けるため焼結して適当な大きさのつぶれにくい通気性のある塊にする。
焼結の原動力は主として物質の表面張力であるが、これは細いガラス管の中の水を持ち上げる毛管圧力と同種の力である。種類の異なる粉末粒の接触部では混じり合って均質になろうとしたり、化合物をつくろうとする力も原子の移動を引き起こし、焼結現象はきわめて複雑になる。また、圧力をかけながら焼結すると粒子間接触部は圧着され、原子の動きもさらに活発になり、焼結しにくい物質でも比較的容易に固められる。焼結中に成分の一部が溶けて粉末粒子のすきまにしみ込んでいく場合には、融液の毛管圧力により粒子は互いに引き付けられ、短時間で緻密な塊ができる。これは液相焼結とよばれ、融点の高い金属粉やセラミック粉のようにそのままでは焼き固めにくい粉末を焼結するときによく用いられる。工業的には、粉末の種類や性質および製品の使用目的に応じて焼結の温度、時間を変える。また、金属粉などは粒子表面に酸化物があると焼結しにくいので、水素や分解アンモニアガスのように還元力のあるガス中や真空中で焼結する。
[渡辺龍三]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
粉体をその各成分の融点以下あるいは一部液相を生じる温度に加熱したとき,物体粒子間の結合によりある程度の強度,形,大きさをもつ固体になる現象.純粋な一物質の場合は液相は生じないが,多成分の場合には液相を生じて焼結が進行することがある.前者では,粒子間の結合力はその物質の化学結合であるが,後者は,ガラス相および結晶相の生成のため複雑である.各種窯業製品,および粉末,金,サーメットなど無機材料の製造に広く応用されている重要な現象である.また,粉体成形せずに加熱したとき,粉体粒子どうしの結合よりもおもに粉体表面の平滑化により,その表面積が減少することも焼結あるいは自由焼結という.[別用語参照]焼成
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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