改訂新版 世界大百科事典 「精神生物学」の意味・わかりやすい解説
精神生物学 (せいしんせいぶつがく)
psychobiology
A.マイヤーとその学派によって提唱・発展させられた力動精神医学で,S.フロイトの学説とともにアメリカ精神医学の基礎を形成した。精神障害を,あるパーソナリティ(人格)が社会的におかれた状況に対して起こす病的な反応としてとらえる。精神障害者の人格は,体質や遺伝的な背景の上に,幼児期の親子関係とその後の心理学的,社会的な因子によって,あるひずみをもって形成されるものと考えられ,特定の状況におかれて特定の反応型をとったものが精神疾患とされる。すなわち,精神生物学は精神疾患を生物学的要因と環境要因と心理学的要因から総合的に理解し,人格や性格のひずみを矯正することによって社会適応を図ろうとする立場である。E.クレペリンの提出した内因性精神病概念と対立する力動的な精神医学理論である点で精神分析学に近いが,人間とその病的な反応を無意識のレベルで論ずるよりも心身の統合体として論じており,この点で無意識の問題を重視する精神分析学に批判的である。精神分裂病(統合失調症)を分裂性反応とした《アメリカ精神医学会障害診断・統計用語集》(1968改正,DSM II)にみえるように,すべての精神疾患を一種の反応型としたアメリカ精神医学は,精神生物学の流れを引くことを示している。なおアメリカでは,その後の用語改正(DSM Ⅲ)にうかがえるように,K.シュナイダーの現象学が大幅に取り入れられつつある。
執筆者:石黒 健夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報