翻訳|constitution
体質とは,人体の各部位の形質の総和である。また,身体の形態や機能について生まれながらに備わっている全体論的な性状である。つまり,人体の一つ一つの部位(器官,臓器,組織など)を個別に調べても判明しない総合的な性状である。
近代医学は,人体の個々の部位を精査して病型を分類するが,16世紀のパラケルスス以前は,むしろ,人体を一つのまとまりとみなして,病気の原因を探っていた。すなわち,病気の原因を体質によって説明しようとしていた。前5世紀半ばに生まれたヒッポクラテスや2世紀のガレノスは,体質を構成する因子は体液であると考え,体液の混和の乱れが病気の原因とする液体病理学説を唱えていた。それに対してアスクレピアデスAsklēpiadēs(前124-前60)らは,人体はアトムからなり,アトムの異常によって発病するという固体病理学説を唱えていた。いずれも,臓器,組織,細胞という知識がなく,個人の特徴を全体的に分類しようとしていた。しかし,ルネサンス以後は,解剖学,生理学などが分化してきて,18世紀から20世紀初頭にかけては,体質を体型によって分類し,これと性格,能力,罹病性などとの関連が研究された。E.クレッチマーによるやせ型,闘士型,ふとり型はその代表的な分類である。また,罹病性に注目した体質分類としては,胸腺リンパ体質,滲出性体質,関節体質または神経関節体質,結合組織体質などがある。現在,最もよく知れわたっているものとしてはアレルギー体質,虚弱体質などがある。
このような体質は,現代医学でいう症候群,症,または病として類型化しているものとは考え方が本質的に異なる。症,病,症候群等の類型は臓器,組織,細胞にあらわれた症状の特徴によって分類されているものが多いが,体質の場合は臓器,組織,細胞まで細分化することなく,個体のもっている全体的な傾向や性状にもとづいている。つまり,前者は近代科学の方法論ともいうべき分化のパラダイムに従っており,体質は未分化のまま,あるいは統合化のパラダイムに属する概念である。
体質の多くは遺伝的なものと考えられ,これらは遺伝体質とよばれるが,遺伝的に制約されない非遺伝体質もあり,これらは環境要因の影響が多いとされている。
体質は身体の面ばかりではなく,精神的な側面からもとらえられており,クレッチマーによる循環気質,分裂気質,および粘着気質などの分類もある。そして,やせ型体質は分裂気質に,ふとり型体質は循環気質に,そして闘士型体質は粘着気質に,それぞれ親和性があるといわれている。
体質を考えるときには,現代人が科学的思考法として慣れ親しんでいる分化的思考ではなく,統合的思考で対処しなければ混乱するだけであることに注意すべきである。
→気質
執筆者:豊川 裕之
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…個人が先天的に持っている機能の身体的ないし精神的反応傾向のこと。このうち身体的反応傾向を体質と呼び,精神的反応傾向を気質と呼ぶ。一般的に素質は環境の対立概念として用いられてきた。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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