日本大百科全書(ニッポニカ) 「経静脈栄養法」の意味・わかりやすい解説
経静脈栄養法
けいじょうみゃくえいようほう
parenteral nutrition
栄養輸液製剤を静脈内に投与する栄養法の総称。本来、食事の基本は「口から食べること」であり、口から食べられない場合であっても消化管(腸)が機能していれば消化管を使う「経腸栄養法」が選択されるが、消化管の消化・吸収機能障害が著しい(腸が機能していない)場合や、経腸栄養法のみでは必要エネルギー量、栄養素が不足する場合に、経静脈栄養法が選択される。
経静脈栄養法には、「末梢(まっしょう)静脈栄養法」と「中心静脈栄養法」の2種類がある。
[横山美樹 2022年12月12日]
末梢静脈栄養法(peripheral parenteral nutrition:PPN)
おもに上腕の静脈など、末梢の静脈に留置したカテーテルから栄養輸液製剤を投与する方法である。管理が比較的容易であり、穿刺(せんし)部位が末梢の比較的浅い血管であるため重篤な合併症の発生は少なく、患者の負担は少ないが、末梢静脈から高濃度の栄養輸液製剤を投与することはできないため、本法のみで十分なエネルギー量を確保することはむずかしい。なお末梢静脈の確保(抹消静脈に針を刺しカテーテルを留置する処置)は、医師のほか看護師も実施できる。
[横山美樹 2022年12月12日]
中心静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN、intravenous hyperalimentation:IVH)
おもに頸部(けいぶ)(内頸静脈)や鎖骨下静脈から中心静脈に向かってカテーテルを穿刺・留置し、栄養輸液製剤を投与する方法(中心静脈とは、胸腔内の大静脈である上大静脈や下大静脈をさす)。英語の略語から「TPN」「IVH」、または「高カロリー輸液」とよばれることもある。中心静脈は、末梢静脈と比べて血液量が多く血流も速いため、末梢静脈からは投与できない高濃度、高エネルギーの栄養輸液製剤を投与することが可能であり、対象に必要なエネルギー量、栄養素を長期間、連続的に補給する方法として用いられる。半面、身体の深部にある血管にカテーテルを挿入するため、カテーテル穿刺時に気胸や血胸などの重篤な合併症が起こる危険性がある。またカテーテル関連血流感染を起こす危険性も末梢静脈栄養法より高いため、感染予防のためのカテーテル管理が複雑であり、末梢静脈栄養法と比較して患者の負担も大きい。なお、中心静脈カテーテルの穿刺は医師のみが実施する。
[横山美樹 2022年12月12日]