日本大百科全書(ニッポニカ) 「聴耳」の意味・わかりやすい解説
聴耳
ききみみ
昔話。異郷から得た不思議な力をもつ道具を主題にする宝物譚(たん)の一つ。聴耳とは、それを耳につけると動物のことばが聞き取れるという宝物の名。子供が殺そうとしている小さな蛇あるいは亀(かめ)を、男が買い取って放してやる。その動物は竜宮の乙姫で、翌日、美しい女の姿になってきて、男を竜宮に招く。竜宮で、竜王からお礼に聴耳の玉をもらって帰る。玉で鳥のことばを聞くと、殿様の病気は、城内の蛇と蛙(かえる)を入れた甕(かめ)を掘り出せば治ると話している。そのとおり進言し、りっぱな占い者であると認められる。形式の整った話は、だいたい陰陽道(おんみょうどう)の大家として知られる安倍晴明(あべのせいめい)の物語になっており、類話は陰陽師の聖典『三国相伝簠簋金烏玉兎集(さんごくそうでんほききんうぎょくとしゅう)』の注釈書『簠簋抄』(1647)にもみえる。一般に晴明の生い立ちを説く「狐(きつね)女房」譚から続いている。「狐女房」と「聴耳」が複合した晴明の物語は、「信田妻(しのだづま)」として説経節や浄瑠璃(じょうるり)になって有名である。もともと陰陽師の宗教文芸として発達した語物で、今日の昔話の多くは、その流れをくんでいる。動物のことばのわかる男の昔話は、朝鮮、中国、インドネシア、インド、トルコをはじめ世界的に分布し、古くはサンスクリット文学や『千夜一夜物語』にもある。蛇が恩返しに動物のことばのわかる力を与えるのが基本的な形式で、日本でも『簠簋抄』などの蛇の例が原形的であるということになる。
[小島瓔]