田村泰次郎(たいじろう)の中編小説。1947年(昭和22)3月号の『群像』に発表。敗戦後の廃墟(はいきょ)と化した東京の、盛り場に近い河岸の焼けビルに、パンパンとよばれる娼婦(しょうふ)たちが共同生活をしている。彼女たちには、肉体は売っても男に情をもってはならぬという厳しい掟(おきて)がある。だが、ボルネオ・マヤとよばれる女は、紛れ込んできた復員者の伊吹という男によって肉体の喜びを知らされる。それが発覚し、マヤは仲間からリンチを受けるのだが、宙吊(づ)りにされたまま、殉教者のごとく肉体の歓喜も知らぬ仲間たちを意識の底で嘲笑(ちょうしょう)している。戦後の混乱期に肉体文学として爆発的人気をよんだ作品。
[中石 孝]
『『筑摩現代文学大系62』(1978・筑摩書房)』
…街娼には他の売春婦のような前借金もなく自由に営業できるようにみえるが,出没圏の確保や客の暴力排除などを自衛する必要から,仲間的集団をつくってなわ張りをもち個人的には〈ひも〉をもつことが多かった。田村泰次郎の《肉体の門》など,そうした街娼の生きざまを描いた小説も少なくない。その間に暴力団が介在することも多く,麻薬や覚醒剤との関連も深い。…
…36年武田麟太郎らの《人民文庫》に参加,《大学》を連載したが,40年応召,中国各地を転戦し敗戦後の46年帰還。以後,《肉体の悪魔》(1946),《肉体の門》《春婦伝》(ともに1947)などやつぎばやに話題作を書き,一躍流行作家になる。とくに《肉体の門》は,肉体の解放こそ人間の解放であり,肉体が思考するとき真の人間性の確立もあるとする彼の主張の実践で,パンパンと呼ばれる街娼の出現した戦後の都市の新風俗を描いた力作だったが,その後はしだいに安易な〈肉体文学〉へと堕していった。…
… 戦時中,検閲の圧迫を受け続けた軽演劇は,敗戦後も,わずかにエノケン一座,ロッパ一座などが再起したにすぎず,これも戦後のインフレのため,満員でも赤字という状態が続き,やがてこれらの一座は解散となった。そんな中で,ひととき人気を集めたのは,空気座による,田村泰次郎原作・小崎政房脚色の《肉体の門》で,47年に東京だけで4ヵ月続演した。しかし,これとても軽演劇がうけたというよりは,当時のストリップショー全盛時代の世相の反映であった。…
… 吉川英治原作の《宮本武蔵》の最初の映画化(1937)がデビュー作で,片岡千恵蔵の武蔵を相手にかれんなお通の役を演じ,トルコに代わってお通さんの愛称でたちまち人気スターになった。しがない老サラリーマン(小杉勇)のやさしく明るい娘を演じた《限りなき前進》(1937)から《キャラコさん》(1939),《暢気眼鏡》(1940)などをへて,杉浦幸雄が轟夕起子その人をモデルにして描いたというホームコメディ的な人気連載漫画の映画化《ハナ子さん》(1943,主題歌《お使ひは自転車に乗って》も歌って大ヒットした)に至るまで,〈天性の明るさ〉を持ち味にした明朗ではつらつとした娘役が専門の彼女であったが,のち,40年に結婚(1950年離婚)したマキノ正博監督による,田村泰次郎の〈肉体文学〉の映画化で主題歌《あんな女と誰が言う》も歌って大ヒットした《肉体の門》(1948)の娼婦関東小政や,谷崎潤一郎のベストセラー小説の映画化《細雪》(1950)の次女幸子といった異色のキャラクターを演じた。53年,島耕二監督と再婚(1965年離婚),その後は一転して《青春怪談》(1955)から《陽のあたる坂道》(1958),《男の紋章》(1963)に至る〈ふとったお母さん〉のイメージが強い。…
※「肉体の門」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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