日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
肝っ玉おっ母とその子供たち
きもったまおっかあとそのこどもたち
Mutter Courage und ihre Kinder
ドイツの劇作家ブレヒトの戯曲。12景。「三十年戦争時代の年代記」という副題をもつ。1939年作、41年チューリヒで初演。49年、ブレヒトとエンゲルの演出によるベルリンのドイツ座での完全上演は、肝っ玉おっ母にブレヒト夫人のヘレーネ・ワイゲルを配し、東ドイツの戦後演劇の出発点の観があった。パウル・デッサウ作曲の九つのソング、生き生きした方言、作者が亡命中の1938、39年の暗い時代に強まった異化効果が目だつ。舞台は1624年から36年のドイツとポーランド。酒保の女アンナ・フィーアリングこと肝っ玉の2人の息子は次々と兵士に仕立てられ、処刑される。おしの娘カトリンは襲撃されるハレの町を救おうとして射殺される。初め3人の子たちと商品を積んで意気盛んだった肝っ玉も、まったく落ちぶれ、1人になって軍隊の後を追う。戦争によって食う者はかくのごとく戦争に支払うものであると舞台は観客に語りかける。
[八木 浩]
『千田是也訳『ブレヒト戯曲選集2』(1961・白水社)』