肝・胆道疾患における新しい展開

内科学 第10版の解説

肝・胆道疾患における新しい展開

 E型肝炎は,従来は輸入感染症であり発展途上国などで水系感染を起こすとされていた.ところが,わが国においても国内型のHEV株が分離され,国内型E型急性肝炎が存在することが明らかとなった.また,ヒト以外のシカ,イノシシ,ブタといった動物にE型肝炎が感染し,それがさらにヒトへも感染するという人畜共通感染症であることが判明した. B型急性肝炎に関しては,遺伝子型が測定できるようになり,欧米型である遺伝子型 Aが感染し急性肝炎を起こすと約10%の頻度で慢性化が起こりうることも明らかにされた.従来日本では,B型肝炎の感染経路は母児感染が主体であり急性B型肝炎は慢性化しないといった常識が覆った. また,C型慢性肝炎の領域においてはCore70番と91番の変異がインターフェロン治療によるウイルス排除と強く関係することも明らかにされた.特にCore70番が野生型だとペグインターフェロン・リバビリン併用療法開始後の効果がよいことが明らかにされた.これは,治療効果の予測因子として非常に重要である.またgenome-wide association study (GWAS)を用いた宿主遺伝子の網羅的解析により,ヒト19番染色体上に存在しインターフェロン-λをコードするIL-28B近傍の遺伝子多型(SNP)とペグインターフェロン・リバビリン併用療法におけるウイルス学的治療効果との関連が明らかとなった.さらには,プロテアーゼ阻害薬であるテラプレビルが臨床で使用できるようになったことも大変重要な進歩である.また,ペグインターフェロン-αの少量長期投与が肝発癌を抑制することも証明され,ウイルス排除が困難な症例に対してはこの治療法が推奨されることも明らかになった. 非ウイルス性肝炎領域の進歩としては非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が注目されている.NASHは肝硬変から肝不全あるいは肝細胞癌を発症し,死に至るきわめて予後の悪い疾患として理解されるようになり,わが国でも増加しつつある.
 肝画像診断における進歩としてはソナゾイド造影超音波とEOB-MRIがあげられる.ソナゾイド造影超音波はソナゾイドを静注投与することにより肝腫瘍の鑑別診断,治療支援,あるいはdefect reperfusion imageを用いることによりBモードでは検出できないような結節も検出できるなどきわめて肝腫瘍の診断と治療に貢献する.EOB-MRIは血流動態を見るダイナミックスタディとともに肝細胞相を有しているのが特徴である.肝細胞相では多血性肝細胞癌の診断能が向上するだけにとどまらず,乏血性の早期肝細胞癌の診断能も向上する.
 多発性肝囊胞の治療においても,肝移植や肝切除に加えて動脈塞栓療法やオレイン酸エタノールアミン(EO)を用いる硬化療法が開発され,従来の治療法に比して治療効果がきわめてよいことも知られてきた. 胆道系では,IgG4関連の胆管炎が知られるようになってきた.IgG4関連の胆管炎は後天性の良性の胆道狭窄・閉塞の原因である.狭窄・閉塞の原因は,病変局所の線維化とIgG4陽性形質細胞の浸潤などを特徴とする硬化性胆管炎である.このような症例に対してはステロイド治療が奏効する. 肝細胞癌の治療においても最近の進歩として分子標的薬ソラフェニブの登場があげられる.ソラフェニブはChild-Pugh分類Aの肝硬変症を背景にもつ進行肝癌(門脈管浸潤や遠隔転移を伴う切除不能肝細胞癌)に対して適応がある唯一の抗癌薬である.従来,肝細胞癌に対する薬物療法は存在しなかったが,ソラフェニブが予後を延長することが証明され標準的治療となった.[工藤正俊]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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