家庭医学館 「急性肝炎」の解説
きゅうせいかんえん【急性肝炎 Acute Hepatitis】
[どんな病気か]
[症状]
[原因]
◎抗原(こうげん)、抗体(こうたい)の型などで診断
[検査と診断]
◎安静と栄養補給が基本
[治療]
[日常生活の注意]
[どんな病気か]
人体の化学工場、異物処理装置といわれる肝臓の細胞が、広い範囲にわたって破壊される病気を肝炎といい、肝炎のうちふつうは1~2か月で治ってしまうものを急性肝炎といいます。
[症状]
肝細胞が広範に壊れるため、GOT、GPTなどの肝機能検査の値が急激に上昇しますが、それだけではほとんど自覚症状がなく、多くは、黄疸が出て初めて気づきます。
黄疸は、血液中の色素であるビリルビンを胆汁(たんじゅう)へ排泄(はいせつ)する機能が障害されて、血液中のビリルビンの濃度が上がるために、皮膚や白目の部分が黄色く見える症状です。
血液中のビリルビン値が上昇すると、尿中にビリルビンが排泄されるために尿が褐色になります(褐色尿(かっしょくにょう))。また便として排泄される胆汁中のビリルビンが少なくなって、大便(だいべん)の色が薄くなったり、白色になったりします。
黄色人種である日本人では、皮膚の色が黄色くなってもすぐに気づかないことがありますが、白目(しろめ)の部分が黄濁(おうだく)することで黄疸とわかります。
それまでは、発熱などの症状から、かぜをひいたと思っている人が多いのですが、黄疸とともにだるさ、気力がなくなるなどの全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん)、疲れやすい(易疲労感(いひろうかん))、食欲不振などの全身症状が現われます。また、味やにおいの好みが変わったり、吐(は)き気(け)、嘔吐(おうと)、下痢(げり)、腹痛なども出現します。
適切な治療でほとんどは1~2か月で治りますが、場合によっては重症化したり、急激に大量の肝細胞が破壊される劇症肝炎(げきしょうかんえん)になって生命が脅(おびや)かされることもあるので入院治療が必要です。
また、軽い場合は黄疸が出ないこともあり、血液検査をしないでいると、かぜや急性胃腸炎と診断されてしまうことがあるため、内科医のなかでも肝臓専門医の診察がたいせつです。
[原因]
急性肝炎の原因のほとんどはウイルス(とくに肝炎ウイルス)の感染によるものです。
ウイルス肝炎は、肝炎ウイルスの感染がないとおこりません。体質的に肝炎になりやすいとか、過労が原因でおこるといったことはなく、症状が出る前になんらかの肝炎ウイルスが感染する機会があったことを意味します。
肝炎ウイルス以外にも、EBウイルスやヘルペスウイルス、サイトメガロウイルスなどの感染でも、肝炎が生じることがありますが、これらの多くは、からだの免疫力(めんえきりょく)が低下した状態のときに感染するものです。
また、肝炎ウイルスは肝細胞の中で増殖(ぞうしょく)しますが、EBウイルスなどのその他のウイルスは肝臓以外で増殖します。その場合、肝臓の破壊はウイルス感染症の一部分の症状にすぎません。
●急性肝炎のいろいろ
肝炎の原因ウイルスには、A型、B型、C型、D型、E型、G型、TT型があり、どれも急性肝炎をおこします。このうち日本でよくみられるのはA型、B型、C型の急性肝炎です。
D型肝炎はD型(デルタ)ウイルスの感染によっておこりますが、このウイルスはB型肝炎ウイルスに感染した人にしか感染しません。ときにB型肝炎ウイルスキャリアの人に感染して、劇症肝炎(げきしょうかんえん)をおこします。イタリアなどでは多く報告されていますが、日本ではほとんど報告がありません。
E型肝炎ウイルスはインドなどに多く、旅行者が感染して帰国後発症することはあっても、あまりみかけません。G型肝炎ウイルスに関しては、まだあまりよくわかっていません。
肝炎は、ウイルスが口から入って感染(経口感染(けいこうかんせん))し、潜伏期(せんぷくき)が比較的短く、しばしば集団発生する、いわゆる流行性肝炎(りゅうこうせいかんえん)と、血液を介して感染し、経過が長い血清肝炎(けっせいかんえん)とに分類された時代があります。前者にあたるのがA型、E型肝炎、後者にはB型、C型が入ります。
また肝炎の感染様式から、輸血後肝炎(ゆけつごかんえん)、感染経路のわからない散発性肝炎(さんぱつせいかんえん)、集団発生する流行性肝炎(りゅうこうせいかんえん)の3つに分類されたこともあります。
輸血後肝炎は、最近ではほとんどみかけられなくなりましたが、たまにB型、C型の肝炎が、輸血が原因で発生しています。散発性肝炎には、まだ原因不明のものがあります。流行性肝炎のほとんどは、A型肝炎です。
B型肝炎は不特定多数の人との性交渉によって感染する場合がありますが、C型、G型肝炎ではほとんどそのような例がみられません。成人になってから感染した場合、B型肝炎は慢性化することはまずありませんが、C型肝炎の多くは慢性化します。G型肝炎についてはまだよくわかっていません。
さらに、A型、B型、C型、D型、E型、G型肝炎のいずれにも診断できない肝炎もまだ存在します。今後その病原体の正体が解明されることが期待されます。
[検査と診断]
急性肝炎の場合、血液検査を行なうと、肝細胞の破壊の程度を示すGOT、GPTが数百~数千単位に上昇しています。
また、一般にIgMという血液中の免疫グロブリン濃度が上昇し、肉眼ではわからなくても、黄疸を示すビリルビン値が上昇していることがあります。
どのタイプの肝炎であるかを確認するために、各型のウイルス感染の証拠を測定します。
A型急性肝炎では、血液中にIgM型のHA抗体の存在が検出されます。
B型急性肝炎では、HBs抗原が証明され、IgG型のHBc抗体が低値で、IgM型のHBc抗体が高値になることで診断がつきます。
C型急性肝炎の場合は、肝炎発症前の血液との比較が必要です。血液中のHCV抗体や、HCV‐RNAが陽性となります。
D型肝炎は、血液中のデルタ抗体の出現、E型肝炎はE型抗体の検出、G型肝炎は血液中のHGV‐RNAの検出とその後のHGV抗体の検出で診断がつきます。
B型肝炎の場合、無症候性(むしょうこうせい)キャリアの状態から急に肝炎を発症することがあり、急性肝炎との区別がつかないことがあります。しかし、キャリアからの発症の場合はHBc抗体が高値であることが診断の根拠になります。
このように、血液中のウイルスがもっている抗原、免疫でできた抗体、ウイルスの遺伝子を測定し、肝炎の原因や予後を決定することができます。
[治療]
急性肝炎はふつう1~2か月で治りますが、約1%が劇症肝炎となります。とくに発症初期に安静を怠ったり発病期に過労が重なると危険で、回復が長びくことがあります。したがって、入院したうえで、安静第一を心がけることがたいせつです。
食欲が落ちたり、吐(は)き気(け)が強い時期には食事がとれず、栄養不足となるため、点滴(てんてき)などで栄養を補給することも必要になります。食欲が出たら、たんぱく質をできるだけ多くとるようなメニューとなります。ただし、あまり長く続けると運動不足と栄養過多で脂肪肝(しぼうかん)の原因になるので注意しましょう。
治療には、通常肝庇護剤(かんひござい)が点滴に加えられたり、内服で使用されます。これらは肝細胞の修復を助けるためとされています。
急性肝炎のなかでも、C型肝炎は慢性化することが多いため、できればウイルスの確実な駆除(くじょ)が目指されます。そのため、C型慢性肝炎の治療に使われるインターフェロンを3~6か月間使用する方法もとられます。
ただし、まだC型急性肝炎にインターフェロンを使用することが医療保険の適応になっていません。そのため、使うか使わないかは医療機関によって差があります。急性期に使用せず、慢性肝炎になった初期に使用すれば、ほとんどウイルスが駆逐(くちく)できるからです。
[日常生活の注意]
流行性肝炎はウイルスに汚染された飲食物を口から摂取(せっしゅ)して感染します。そのため衛生管理や手洗いが重要です。
とくに汚染地域では、生水(なまみず)や生ものの摂取は避け、生水でつくった氷にも注意しましょう。
汚染地域に旅行または長期滞在する場合は、あらかじめワクチンを接種(せっしゅ)してから出かけることを勧めます。現在、A型肝炎ウイルスにはHAワクチン(コラム「HAワクチン」)が使われています。
血清肝炎は血液を介して感染します。とくにB型肝炎ウイルスは血液中の量が多く、性交渉による感染も少なくありません。したがって、エイズと同様、不特定多数との性交渉は避け、コンドームなどの感染予防処置が必要です。
B型肝炎ウイルスキャリアの配偶者(はいぐうしゃ)や子どもは、B型肝炎ウイルスワクチンを接種して予防をはかりましょう。
短期間の予防には、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスに対する抗体である免疫グロブリンを注射する方法があります。この予防効果は3か月ぐらいですが、短期間の旅行などには適しています。
C、D、E、G型の肝炎ウイルスに対するワクチンは、残念ながらまだ開発されていません。そのため、感染予防に努める以外の方法はありません。輸血を必要とする機会をつくらないように注意するのも1つの方法です。