内科学 第10版 の解説
肺炎マイコプラズマ感染症
上気道炎,気管支炎,肺炎を起こすが,肺炎は肺炎マイコプラズマ感染者の約3~5%に起こる.飛沫感染により感染し,潜伏期間は10~15日と長く,家族内や集団内での流行が問題となる.あらゆる年齢層が罹患しうるが,小児では4~5歳以上の小児,若年成人の市中肺炎の主要な原因微生物となる.肺炎マイコプラズマ感染症は,わが国では従来4年周期でオリンピックのある年に流行を繰り返していた.近年この傾向は崩れつつあり,1984年と1988年に大きな流行があって以降は大きな全国規模の流行は認められていなかったが,2011~2012年にかけてマクロライド耐性菌による大流行が認められた.
病理・病態生理
気道に侵入した肺炎マイコプラズマは,菌体表面のP-1蛋白を介して気管支の線毛上皮細胞に付着し,増殖する.その結果,線毛運動の低下や線毛上皮細胞の剥離など局所の病変が進行し肺病変が形成されるものと考えられる.肺病変は肺炎マイコプラズマによる直接作用および間接作用により生ずると考えられている.すなわち,直接作用としては肺炎マイコプラズマが産生する過酸化水素による組織傷害や細胞に対する代謝障害作用,間接作用としては生体の免疫反応を介したサイトカインによる障害で,これらの免疫反応が多彩な症状や種々の合併症に関与していると考えられている.
臨床症状
潜伏期間の後,発熱,咽頭痛,鼻汁,咳などの呼吸器症状で発症する.肺炎の場合,細菌性感染の際にみられるような膿性の痰は伴わず,症状が遷延して頑固な乾性咳が続く特徴がある.また,通常の呼吸器感染症状以外に,下痢,嘔吐などの消化器症状,じんま疹や紅斑などの皮疹が認められることがある.
検査成績
末梢血白血球数は多くの場合正常範囲内であるが,細菌との混合感染があった場合には増加する.好酸球の増加を伴うことが多い.CRPの軽度から中等度の上昇,赤沈の亢進が認められる.ときにAST,ALTの上昇を伴う.血清学的には寒冷凝集素の増加が認められるが非特異的である.肺炎マイコプラズマ特異抗体の測定法には補体結合反応(CF),間接赤血球凝集反応(PHA),間接凝集反応(PA),および酵素抗体法(EIA)がある.PHA法,PA法,EIA法IgM抗体は発症後1~2週で上昇する.最近痰や上気道粘液を検体としてPCR法やLAMP法により肺炎マイコプラズマDNAを検出する迅速診断が行われており,このうちLAMP法は保険収載された.
マイコプラズマ肺炎に特徴的な胸部X線所見はないが,通常は細菌性肺炎のような大葉性肺炎の像は呈さず,浸潤影を呈することが多い.また無気肺を伴うことも多く,胸膜炎を併発した場合には胸水を認める.
診断・鑑別診断
地域や集団内での流行状況,臨床症状,胸部X線所見,β-ラクタム系薬が無効であることなどから診断するが,確定診断のためには血清学的診断として肺炎マイコプラズマ抗体のペア血清での有意な上昇を確認するか,あるいは,急性期に特異的IgM抗体を検出することで診断する.ただPHA,PA,EIA IgMの各抗体は,いったん上昇すると長期にわたり陽性が持続するので,ワンポイント採血の結果のみで確定診断するのには問題がある.LAMP法による肺炎マイコプラズマDNAの検出は確定診断に有用である.
合併症
多彩な合併症が報告されており,なかでも髄膜炎,脳炎,Guillain-Barré症候群などを含む中枢神経系症状,発疹などの皮膚病変が小児例に多く,肝機能障害は成人例に比較的多い.
治療・予防
小児,成人ともにマクロライド系の抗菌薬が第一選択薬となる.マクロライド系薬が無効もしくは使用できない場合は,8歳以上の小児および成人に対してはミノサイクリンなどのテトラサイクリン系薬を使用する.マクロライド無効例に対してレボフロキサシン,ガレノキサシンなどの一部のニューキノロン系薬も有効である.咳,喘鳴に対しては去痰薬,気管支拡張薬,鎮咳薬を併用する.
現在のところ特異的な予防手段はない.[岩田 敏]
■文献
Baum SG: Mycoplasma disease. In: Principles and Practice of Infectious Diseases, 7th ed (Mandell GL, Bennett JE, et al eds), pp2477-2493, Churchill Livingstone, New York, 2010.
Cherry JD: Mycoplasma and Ureaplasma infections. In: Textbook of Pediatric Infectious Diseases, 6th ed (Feigin RD, Cherry JD, et al eds), pp2685-2714, WB Saunders, Philadelphia, 2009.
国立感染症研究所:小児におけるマクロライド高度耐性・肺炎マイコプラズマの大流行.病原微生物検出情報(IASR), 2011.http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/381/pr3814.html
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報