マイコプラズマ肺炎(読み)マイコプラズマハイエン

デジタル大辞泉 「マイコプラズマ肺炎」の意味・読み・例文・類語

マイコプラズマ‐はいえん【マイコプラズマ肺炎】

肺炎マイコプラズマの感染によって起こる肺炎。流行性で、若年者に多い。頭痛・倦怠けんたい・発熱がみられ、強いせきが続く。

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共同通信ニュース用語解説 「マイコプラズマ肺炎」の解説

マイコプラズマ肺炎

病原体はマイコプラズマ・ニューモニエで、せきなどのしぶきや感染者との濃厚な接触により感染し、増殖する。潜伏期間は通常2~3週間。頭痛や全身の倦怠けんたい感などの症状が出て、悪化した場合、肺炎となる。抗菌薬で治療するが、薬の効かない耐性菌が問題となっている。

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EBM 正しい治療がわかる本 「マイコプラズマ肺炎」の解説

マイコプラズマ肺炎

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 マイコプラズマという微生物によっておこる肺炎です。この病気は、発熱を伴って急激に発病することが多く、6割ほどの人で発熱は38度以上になります。それ以外の人は微熱としつこい空(から)せきで発病します。潜伏期間は10~14日間です。
 発病後は夜間に激しくなる頑固(がんこ)なせきが長期にわたって続きます。痰(たん)はねばりがあり、膿(うみ)が混じっているようなもの(粘液性あるいは粘膿性(ねんのうせい))で、のどの痛みや鼻水や鼻づまりが20~30パーセントに認められます。また、ある限られた地域のなかで流行することが多く、流行は4~5年の間隔でくり返されます。
 比較的症状が強いため、内科を受診するのが一般的で、自然に治ることはまずありません。
 子どもでは中耳炎(ちゅうじえん)、発疹(ほっしん)、脳炎の合併に注意が必要です。一般成人では、溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)、髄膜炎(ずいまくえん)、ギランバレー症候群などの中枢神経障害(ちゅうすうしんけいしょうがい)、発疹、肝機能障害、鼓膜炎(こまくえん)、心筋炎(しんきんえん)などの合併症が認められます。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 マイコプラズマは、自己増殖能力のある微生物のなかではもっとも小さなもので、細胞壁をもたない生物です。この菌に感染すると細気管支(さいきかんし)から肺胞(はいほう)にかけて単核球(たんかくきゅう)の浸潤(しんじゅん)がみられ、主として間質性肺炎(かんしつせいはいえん)が生じます。

●病気の特徴
 飛沫感染(ひまつかんせん)による細菌感染症なので、保育園・幼稚園や学校で流行することが多く、5~30歳に多く発症します。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]対症療法として、鎮咳薬(ちんがいやく)、吸入薬、去痰薬(きょたんやく)、解熱薬などを用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 対症療法という観点では、臨床研究によって効果のある治療法(たとえば解熱鎮痛薬の使用など)が確認されています。それらの多くは、古くからの観察研究によるものです。(1)(2)

[治療とケア]副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬(やく)を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 急性呼吸促迫症候群(きゅうせいこきゅうそくはくしょうこうぐん)(肺が急激に炎症をおこし、肺の組織が傷つく病気で、過呼吸や呼吸困難を伴う)のような症状や髄膜炎を併発する場合には、副腎皮質ステロイド薬が有効です。これは、臨床研究によって確認されています。(3)

[治療とケア]抗菌薬治療としてはマクロライド系かテトラサイクリン系の抗菌薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] マイコプラズマ肺炎に対する抗菌薬の効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確認されています。市中肺炎(病院に入院しているときに発病したものでない肺炎)のガイドラインから考えると、これらの抗菌薬の使用はとくに外来治療の場において推奨されています。(4)(5)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗菌薬による薬物療法
[薬名]ジスロマック(アジスロマイシン水和物)(4)(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]クラリシッド/クラリスクラリスロマイシン)(4)(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ルリッド(ロキシスロマイシン)(4)(5)
[評価]☆☆☆
[薬名]ミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)(4)(5)
[評価]☆☆☆
[薬名]クラビット(レボフロキサシン水和物)(6)
[評価]☆☆☆☆☆

[評価のポイント] マクロライド系抗菌薬のアジスロマイシン水和物、クラリスロマイシンについては非常に信頼性の高い臨床研究によって、マイコプラズマ肺炎に対しての効果が確認されています。ロキシスロマイシン、ミノサイクリン塩酸塩についても臨床研究によって効果が確認されています。また、ニューキノロン系抗菌薬のレボフロキサシン水和物の効果についても、非常に信頼性の高い研究によって確認されています。

内服ができない場合の注射薬
[薬名]エリスロシン(エリスロマイシン)(4)(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)(4)(5)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] マクロライド系抗菌薬であるエリスロマイシンは、非常に信頼性の高い臨床研究によって、マイコプラズマ肺炎に対する効果が確認されています。ミノサイクリン塩酸塩についても臨床研究があり、効果が確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
マクロライド系抗菌薬が有効
 マイコプラズマが原因となっておこる肺炎は、発熱や頑固なせきなどの症状が強く現れるため、医師の診察を早めに受けるといいでしょう。
 肺炎のなかでもマイコプラズマによるものとの診断がつけば、マクロライド系あるいはテトラサイクリン系の抗菌薬によって、ほぼ確実に治るものと考えられています。
 ただし、マイコプラズマによる肺炎かもしれないという疑いをもたないでほかの種類の抗菌薬を使い続けると、治癒(ちゆ)がかなり遅れることもあります。
 なお、近年マクロライド系抗菌薬に耐性のあるマイコプラズマによる肺炎がとくに小児科領域において問題となることがあります。ただし、大人へのマクロライド系抗菌薬耐性マイコプラズマの感染はまれといわれるため、マクロライド系抗菌薬、テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択といえます。

必要に応じて対症療法を
 肺炎に伴う発熱、せき、痰には、それぞれ解熱薬、吸入薬、鎮咳薬、去痰薬などを必要に応じて対症的に用います。これらの対症療法の多くは、古くからの観察研究によって効果のあることが確認されています。

子どもから感染することが多い
 マイコプラズマ肺炎はある特定の地域で流行することが多く、とくに保育園・幼稚園や学校などで流行することが多い病気です。したがって、家族内の感染は子どもから始まるのが一般的です。
 流行していることがわかっているときは、うがい、手洗いなどをよくするようにして感染を予防すべきでしょう。マスクの着用も予防に役立ちます。また、子どもでは中耳炎、発疹、脳炎などの合併症をしばしばおこすこともあるので、症状がみられたときはすぐに医療機関で診察を受けましょう。

(1)Mok JY, Inglis JM, Simpson H. Mycoplasma pneumoniae infection. A retrospective review of 103 hospitalised children. ActaPaediatr Scand. 1979;68:833-839.
(2)Trochtenberg S. Nebulized lidocaine in the treatment of refractory cough. Chest. 1994;105:1592-1593.
(3)Martin RE, Bates JH. Atypical pneumonia. Infect Dis Clin North Am. 1991;5:585-601.
(4)Bartlett JG, Dowell SF, Mandell LA, et al. Practice guidelines for the management of community-acquired pneumonia in adults. Clin Infect Dis. 2000;31:347-382.
(5)Niederman MS, Mandell LA, Anzueto A, et al. Guidelines for the Management of Adults with Community-acquired Pneumonia. Diagnosis, assessment of severity, antimicrobial therapy, and prevention. Am J RespirCrit Care Med. 2001;163:1730-1754.
(6)File TM Jr, Segreti J, Dunbar L, Player R, et al. A multicenter, randomized study comparing the efficacy and safety of intravenous and/or oral levofloxacin versus ceftriaxone and/or cefuroxime axetil in treatment of adults with community-acquired pneumonia.Antimicrob Agents Chemother. 1997;41:1965.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「マイコプラズマ肺炎」の意味・わかりやすい解説

マイコプラズマ肺炎
まいこぷらずまはいえん
mycoplasma pneumonia

肺炎マイコプラズマMycoplasma pneumoniaeに感染することによっておこる呼吸器感染症。肺炎マイコプラズマは地域で流行する肺炎(市中肺炎)のおもな原因菌の一つであり、学童期~青年期にみられる肺炎のなかではもっとも頻度が高い。マイコプラズマ症ともよばれる。またほかに、「非定型肺炎atypical pneumonia」(肺炎球菌などの定型的な細菌による肺炎とは違って、症状が軽く、胸部X線写真像も異なるためこうよばれる。なお非定型肺炎はその多くをマイコプラズマ肺炎が占めるが、クラミジア肺炎やウイルス性肺炎なども含まれる)や、「歩きまわれる肺炎walking pneumonia」(胸部X線写真の肺炎像と比較して症状が軽いため)、「オリンピック病」(日本では、新型コロナウイルス感染症〈COVID(コビッド)-19〉の流行以前は4年周期でオリンピックのある年に流行を繰り返してきたため)などとよばれることもある。

[水野真介・笠井正志 2024年4月17日]

流行のパターンと感染経路

肺炎マイコプラズマには、菌を構成するタンパク質の違いによって二つの異なるタイプがあり、一方のタイプに感染しても、他方のタイプに対する免疫は得られないため、交互に人々の間で感染が広がり、数年ごとに感染が流行する。

 肺炎マイコプラズマは、感染者からの飛沫(ひまつ)感染(咳(せき)やくしゃみなどによる感染)により、気管支の表面に存在する気道線毛上皮に感染をおこす。ただし、直接細胞を壊したり、菌が細胞内に侵入したりすることはほとんどない。通常、菌の成分の一部に対して、ヒトの免疫が反応することによって肺炎が生じる。感染により抗体がつくられるが、その効果は持続しないため、一生の間に複数回感染することがある。

[水野真介・笠井正志 2024年4月17日]

原因菌

ヒトに病気を引き起こすマイコプラズマ科の菌には、マイコプラズマ属菌とウレアプラズマ属菌の二つが存在する。マイコプラズマ属菌の特徴は、細胞の直径が150~250ナノメートルで、細胞壁をもたないことである。ヒトに病気を引き起こすことができ、自己増殖が可能な真核生物のなかでもっとも小さく、生物学的には細菌に分類される。ヒトの呼吸器検体から検出されるマイコプラズマ属菌のなかでもMycoplasma pneumoniaeはもっとも頻度が高い。

[水野真介・笠井正志 2024年4月17日]

症状・合併症

肺炎マイコプラズマに感染すると、気管支炎や肺炎を生じる。感染から症状が現れるまでの期間は通常2~3週間で、症状は緩やかに進行する。初めは発熱、倦怠(けんたい)感、頭痛、のどの痛みが現れ、その3~5日後には痰(たん)の絡まない、乾いたような咳が出始める。鼻汁や消化器系の症状は、年長の子どもではあまりみられない。また呼吸器以外の症状が引き起こされることがあり、感染者の10~20%に皮膚の発疹(ほっしん)が現れる。

 さらに、マイコプラズマ感染症による粘膜炎、脳炎、ギラン・バレーGuillain-Barre症候群(神経疾患)、溶血性貧血(赤血球が壊れることによる貧血)、心筋炎(心臓の筋肉の炎症)など、さまざまな病気が引き起こされることがある。

[水野真介・笠井正志 2024年4月17日]

検査・診断

肺炎マイコプラズマは完全な細胞壁をもたないため、一般的な細菌検査に用いられるグラム染色で染色されないという特徴がある。また、ほかの一般的な細菌と比べて増殖する速度が遅く、検査室の試料で培養するには通常約2週間かかる(ただし多くの医療施設では、患者の呼吸器試料(咽頭(いんとう)ぬぐい液や痰)を使って、肺炎マイコプラズマを構成するタンパク質や遺伝子を迅速に検出することが可能である)。

 感染した患者の血液を使用して、肺炎マイコプラズマに対する抗体を検出する方法も一般的である。ただし、感染後、1週間以内では十分な抗体の増加が得られないこともあり、誤って陰性となってしまう可能性がある。また、抗体検査は陽性結果が数か月間続くこともある(過去に感染し、今回の症状とは関係がない場合もある)ため、慎重に判断する必要がある。

[水野真介・笠井正志 2024年4月17日]

治療

肺炎マイコプラズマは完全な細胞壁をもたないため、通常、市中肺炎をおこす細菌に対して使用するβ(ベータ)ラクタム系の抗菌薬では効果が得られない。

 日本マイコプラズマ学会では「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」(2019年改訂)において、最初に選択すべき抗菌薬としてマクロライド系薬を勧めている。マクロライド系薬は有効性が高く、治療後に除菌されている割合も高いからである。しかし、マクロライド系薬に対する耐性遺伝子が検出された場合や、マクロライド系薬を2~3日使用しても熱が下がらない場合、ほかの抗菌薬への変更を検討することがある。

 肺炎以外の合併症の治療にはステロイドが使用されることがある。

[水野真介・笠井正志 2024年4月17日]

経過・予後

通常、1週間で咳がもっとも激しくなり、2週間以内には症状が改善傾向となることが多い。しかし、一部の患者では4週間以上にわたり喘鳴(ぜんめい)を伴う咳が続くこともある。有効な抗菌薬治療を受けると症状のある期間が短くなり、通常は抗菌薬治療から2~3日で熱が下がる。ほとんどの患者は合併症をおこすことなく回復する。

 呼吸器感染症の合併症として副鼻腔(ふくびくう)炎、クループ症候群(喉頭(こうとう)炎)、閉塞(へいそく)性の細気管支炎、胸水の貯留、気管支喘息(ぜんそく)、中耳炎、外耳道炎などがある。呼吸器以外の合併症として脳や脊髄(せきずい)に感染が及んだ場合、患者の23~64%に長期的・神経学的な後遺症を残すと報告されている。

[水野真介・笠井正志 2024年4月17日]

薬剤耐性問題

肺炎マイコプラズマにおいても薬剤耐性(感染症の原因となる細菌に抗菌薬が効かなくなること)が問題となっている。過去に処方されて余っている抗菌薬を自己判断で服用したり、量や期間を処方通りに服用しないと、抗菌薬の効果が得られないだけでなく、薬剤耐性菌が生じて感染症の治療や予防の妨げとなることがある。

[水野真介・笠井正志 2024年4月17日]

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六訂版 家庭医学大全科 「マイコプラズマ肺炎」の解説

マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマはいえん
Mycoplasma pneumonia
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 マイコプラズマ肺炎は、小集団内で流行を起こすことが特徴のひとつで、かつては4年周期でオリンピック開催年に大きな流行を繰り返してきたため、「オリンピック病」と呼ばれていました。

 しかし最近はこの傾向が崩れてきており、1984年と1988年に大きな流行があって以来、全国規模の大きな流行はみられていません。この数年は散発的な流行が多くみられ、2000年以降その発生数は毎年増加傾向にあります。

 マイコプラズマは市中(しちゅう)肺炎の原因菌としては肺炎球菌に次いで多い微生物です。本菌による肺炎は比較的軽症であることが多く、10~30代の若年成人に好発するのが特徴です。

症状の現れ方

 最も特徴的な症状は咳嗽(がいそう)(せき))で、ほとんどすべての症例に認められ、夜間に頑固で激しい咳が現れます。発熱も必発で、ほとんどが39℃以上の高熱が出ます。

検査と診断

 一般検査所見では、白血球数は増加しないことが多く、一過性の肝酵素(ALT、AST)の上昇が約30%に認められます(クラミジア・ニューモニエ)。

 日本呼吸器学会がマイコプラズマ肺炎を中心とした非定型肺炎を疑う項目を公表しています(表1)。筆者らの検討では、この鑑別表を用いることによって85%以上の確率で診断できることを証明しているので参考にしてください。

どのように診断するか

 培養検査には特殊な培地(PPLO培地)を使用しますが、細菌培養に比べて長時間を必要とするため、診断は主に血液を用いた血清抗体価測定に依存しています。しかし、血清抗体価測定法は早期に診断ができないといった欠点があり、このためIgM抗体を迅速に検出するイムノカード(IC)法が開発されました。しかし、本法は偽陽性例が多く、陽性持続期間も長いため、急性感染を確定する方法ではないとされています。

治療の方法

 マイコプラズマは細菌の一種ですが、一般の細菌とは異なって細胞壁をもっていません。そのため、β(ベータ)­ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系やセフェム系など)は無効であり、蛋白合成阻害を主作用とするマクロライド系やテトラサイクリン系、ケトライド系抗菌薬が第一選択薬となります。また、一部のニューキノロン系薬も有効性が確認されています。

 一方、マイコプラズマのマクロライド耐性株が2000年以降に日本各地で分離されるようになりました。その頻度は、小児科領域で40~60%にも及んでいるので注意が必要です。

 大部分のマイコプラズマ肺炎は比較的良好な経過をとりますが、時に急性呼吸不全を起こす重篤な症例も認められます。このような重症の場合では、抗菌薬とともに副腎皮質ステロイド薬の併用が有効であるとされています。

病気に気づいたらどうする

 家族内や小集団内で発生することから、周囲の人たちがマイコプラズマ肺炎と診断されていて、頑固な咳が続く場合には病院を受診してください。また、世間一般に広く使用されているβ­ラクタム系抗菌薬が効かない場合は、医師に相談してください。

宮下 修行



マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマはいえん
Mycoplasma pneumonia
(子どもの病気)

どんな病気か

 マイコプラズマという病原体による、学童期に比較的多い肺炎です。昔は4年に一度流行していたので「オリンピック肺炎」などと呼ばれましたが、現在その傾向は崩れつつあります

原因は何か

 マイコプラズマという細菌の感染によります。

症状の現れ方

 感染している人と濃厚に接触してうつります。潜伏期間は2週間前後です。

 主な症状は熱と(せき)です。とくに咳はひどく、喘息(ぜんそく)の子どもがマイコプラズマ肺炎に感染すると重い喘息発作を起こすことがあります。

 合併症を起こすことは少ないです。

検査と診断

 胸部X線検査により肺炎と診断し、血液検査でマイコプラズマの抗体を測定してマイコプラズマ肺炎の診断をします。

治療の方法

 マイコプラズマに効果のある、マクロライド系の抗生剤を使います。これにより多くは2~3日以内に熱が下がります。

 なお、子どもによく使われるペニシリン系やセフェム系の抗生剤はまったく効果がありません。

病気に気づいたらどうする

 熱とひどい咳が3~4日以上続いたら早めに医療機関を受診してください。

 とくに、小学生でこのような症状があったり、ペニシリン系やセフェム系の抗生剤を服用していても症状の改善がまったくみられない時は、この病気にかかっている可能性があります。

大石 智洋

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

知恵蔵 「マイコプラズマ肺炎」の解説

マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)を病原体とし、主に呼吸器症状を起こす感染症である。1~4週間の潜伏期間の後、発熱、倦怠(けんたい)感、頭痛などがみられ、数日して乾いた咳(せき)が出始める。熱が下がってからも咳は1カ月ぐらい続き、約4割は呼吸時に気道を空気が通る際にゼイゼイ、ヒューヒューという雑音を発する喘鳴(ぜんめい)がある。大半は約1カ月で治癒するが、喘息(ぜんそく)に似た気管支炎を起こしたり、胸水がたまって重症化したりすることもある。
感染経路は、飛沫(ひまつ)感染、接触感染とされている。感染により抗体はできるが、生涯続く免疫ではないので全年齢層で感染のリスクはある。国立感染症研究所が実施している感染症サーベイランスによれば、患者は幼児、学童、青年期に多い。ただし、1歳以下の乳児にはほとんどみられない。また、流行に季節性はない。
抗体の迅速検出キットが普及し診断に活用されているが、この病気に初めて感染する児童は発病後1週間以上経たないと陽性反応が出ないことが多い。他には血清診断、遺伝子検出法でも診断できる。2011年10月より、遺伝子検出法の一つであるマイコプラズマ核酸同定検査(LAMP法)に保険が適用されるようになった。
治療の基本は、抗菌薬を用いた薬物療法である。病原体に細胞壁がないため、ペニシリンなどの細胞壁を作らせないことによって効果を発揮する薬剤が効かない。そこで、細菌がたんぱく質を合成するのを阻害するマクロライド系やテトラサイクリン系、DNA複製を阻害するニューキノロン系の抗生剤などが主に用いられる。
予防には感染経路を断つ必要がある。マスクなどで飛沫感染を防ぎ、うがいや手洗いを十分にする他、患者との濃厚な接触を避けることが対策として挙げられる。
感染症法においては5類感染症定点把握疾患に指定されており、全国約500カ所の基幹定点医療機関から発生動向が報告されている。11年は、夏から例年を上回る数の発生がみられ、同年10月初旬からは過去5年平均の2倍を超える勢いとなって、国立感染症研究所から注意を促すレポートが出た。
11年11月、皇太子の長女・愛子様が入院した際にも、マイコプラズマ肺炎の可能性が高いと発表された。

(石川れい子  ライター / 2011年)

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改訂新版 世界大百科事典 「マイコプラズマ肺炎」の意味・わかりやすい解説

マイコプラズマ肺炎 (マイコプラズマはいえん)
mycoplasma pneumonia

マイコプラズマ・ニウモニエMycoplasmapneumoniaeによって起こる肺炎で,原発性非定型肺炎の約30~40%を占める。この病原微生物は,細胞壁を欠き細胞膜のみをもち,ウマ血清と酵母エキスを加えた培地で培養できる。一般的には比較的軽症の肺炎を起こし,4年周期で多発流行する傾向がある。症状として,咳,発熱,痰,咽頭症状がみられ,ときに鼓膜炎を合併して耳閉塞感,耳痛を伴う。きわめてまれであるが脳炎などの中枢神経合併症,心筋炎,溶血性貧血,関節炎などを合併することもある。血沈値は著しく増え,寒冷凝集反応が陽性となり,白血球数は正常範囲内かむしろ減少する。咽頭のぬぐい液から病原体が培養できるか,もしくは血清反応で病初と回復期血清の間に4倍以上の抗体価の上昇があれば確定診断される。マクロライド系またはテトラサイクリン系の抗生物質が有効で,一般に予後はよい。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マイコプラズマ肺炎」の意味・わかりやすい解説

マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマはいえん
mycoplasmal pneumonia

マイコプラズマ・ニューモニア Mycoplasma pneumoniaeを病原体とする急性の肺炎。春と秋に多発し,4年ごとに流行のピークがある。病原体が特定される前には,病態が定型を示さないことから,異型肺炎,非定型肺炎,あるいは一過性肺炎と呼ばれた。また,定型的な大葉性肺炎とは異なった臨床像をとり,ペニシリンも無効なことから注目されていた。肺炎全体の 15~20%を占め,急性期には普通の急性肺炎と同様に発熱,咽頭痛,頭痛,喀痰などの症状がみられることもあり,X線写真(→X線撮影法)でははっきりした異常陰影が認められるが,高齢者の場合には熱の出ない例も多い。したがって症状からは診断がつかず,病原体を分離するか,血清中の病原体に対する特異抗体を証明するか,寒冷凝集素価の上昇(→寒冷凝集反応)をみる必要がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「マイコプラズマ肺炎」の意味・わかりやすい解説

マイコプラズマ肺炎【マイコプラズマはいえん】

マイコプラズマ・ニウモニエの感染による肺炎。流行性の肺炎で,従来は4年に一度流行のピークがあったが,最近は不規則になっている。頭痛,全身倦怠感,38℃前後の発熱とともに,強い咳が頑固に続くのが特徴。呼吸器が病的状態の際に発生する肺音の一種のラッセル音と,X線検査で肺門周囲に陰影が認められる。治療はテトラサイクリン系,マクロライド系の抗生物質が有効。→マイコプラズマ

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知恵蔵mini 「マイコプラズマ肺炎」の解説

マイコプラズマ肺炎

肺炎マイコプラズマという細菌によって引き起こされる呼吸器感染症。発熱や頭痛、全身倦怠感、痰を伴わない咳などの症状がみられる。熱が下がった後も咳が3~4週間にわたって続くのが特徴で、重症化する場合もある。家庭や学校などで患者の咳のしぶきを吸い込んだり、患者と身近で接触したりすることで感染し、潜伏期間は2~3週間と長い。患者は若い人や小児が多く、約80%が14歳以下。一年を通じてみられるが、冬に増加する傾向がある。周期的に大流行を起こすことが知られており、日本では1984年、88年に大きな流行が報告された。夏季五輪の開催年と重なっていたことから「オリンピック病」と呼ばれていたこともある。

(2018-2-22)

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