胎内感染症

内科学 第10版 「胎内感染症」の解説

胎内感染症(先天性疾患)

定義・概念
 胎児がウイルス・原虫に感染し,特徴的な全身症状や中枢神経病変を呈する.代表的な病原体の頭文字をとってT(toxoplasma)O(others,梅毒やHIV)R(rubella)C(cytomegalovirus)H(herpes simplex)症候群と総称されることが多い.
病態
 サイトメガロウイルストキソプラズマ風疹,梅毒,HIVは,血流を介して経胎盤的に感染を起こす.サイトメガロウイルスはウイルスの再活性化による場合もあるが,その他は妊婦の初感染による.感染の時期が早いほど一般に重症であり,脳の形成異常を伴う.ただし,単純ヘルペスとHIVの一部は,おもに分娩時の産道での感染であり,厳密には胎児期の感染とは異なる.
臨床症状
 胎児期から胎児水腫などの重篤な症状を呈することもある.新生児期以降には下記のような症状を呈する.各病原体に特徴的なものは括弧内に示した.
1)中枢神経系:
精神遅滞,脳性麻痺てんかん小頭症,水頭症,髄膜脳炎など.
2)難聴(サイトメガロウイルス,風疹)
3)眼症状:
白内障,網膜脈絡膜炎,視神経萎縮など.
4)全身症状:
子宮内発育遅延,胎児水腫,先天性心疾患(風疹),肝腫大,黄疸,紫斑,肺炎など.
 単純ヘルペスウイルスは,おもに産道感染にて新生児期に全身感染や脳炎をきたし,発熱,哺乳力低下などの敗血症様症状や痙攣で発症し,重篤な病状を呈する.単純ヘルペスに特有の皮膚,口腔の所見を認めない場合もある.
検査成績
 新生児期に黄疸,溶血性貧血,血小板減少などの所見を認める場合がある.頭部CT,MRIでは,サイトメガロウイルスやトキソプラズマ感染では,頭蓋内石灰化,大脳白質病変,脳皮質形成異常,上衣下偽性囊胞,水頭症などの所見を認める.特に点状の石灰化所見は胎児期の感染に特徴的な所見である.
診断
 児の臨床症状,妊娠中の母体での病原特異的抗体の上昇に加えて,臍帯血や生直後の血液にて総IgMの上昇,病原特異的IgMの上昇などで診断する.サイトメガロウイルス感染は,新生児期には尿中のPCRで,それ以降は臍帯を使用したPCRでの検査が一般的である.乳児期の血液中IgGは,母体からの移行抗体である可能性が高く診断的な意味はあまりない.
治療
 単純ヘルペスにはアシクロビルを,トキソプラズマにはスルファジアジンとピリメタミンによる治療を行う.サイトメガロウイルス感染では,ガンシクロビルによる治療が難聴に有効であることが示されている.[岡 明]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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