胎児のへそ(臍輪)と胎盤とを連結する細長い帯状のもので、俗にへその緒とよばれる。成熟胎児では直径約1センチメートル、長さ約50センチメートルで、表面は平滑な羊膜で覆われ、中に壁の厚い2本の臍動脈と、壁が薄くて口径の大きい1本の臍静脈があり、膠様質(こうようしつ)で保護されている。それぞれ臍静脈、臍動脈、膠様質、羊膜鞘(しょう)の発育がこの順に早くて長くなるため、大多数はねじれており、左捻転(ねんてん)が右捻転より約3倍多くみられる。また、臍帯の胎盤側付着部位は一定せず、側方付着がもっとも多く、中央付着や辺縁付着の場合は少ない。まれに卵膜付着もあるが、これは付着異常とされる。これら付着部位は、受精卵の着床時に決まる。
臍帯は、胎児の胎内生活に不可欠な酸素や栄養などの供給を受ける通路であり、成人の気道や食道に相当する。臍動脈は胎児の静脈血を胎盤に送り、臍静脈は胎盤から動脈血を導く。したがって、臍帯が圧迫されて胎盤からの血流が止まると、胎児は死亡する。こうした障害をおこす臍帯異常には、臍帯巻絡(けんらく)をはじめ、臍帯結節や異常捻転、臍帯過長(1メートル以上)や過短(30センチメートル以下)のほか、胎盤付着異常、臍帯欠如や断裂などがあげられる。なお臍帯巻絡は、臍帯が長すぎ、羊水が多い場合によくみられ、胎児に巻き付くため出産時に血行障害がおこり、仮死状態で生まれることが多い。
[新井正夫]
臍帯は出産後切断するが、昔は一定の作法により葦(あし)や竹べらなどで切った。処理法はさまざまで、埋めたり、産屋や便所に吊(つ)るしたり、生児の名前と生年月日とを書いた紙に包んで水引をかけて保存したりした。これらは薬物、災難除(よ)けの呪物(じゅぶつ)などとして用いられるとともに、嫁入りのときに持参させたり、納棺のときにいっしょに入れたりした。
[倉石忠彦]
〈せいたい〉とも読み,俗に〈へその緒〉ともいう。胎盤,羊水とともに哺乳類における胎児付属物の一つで,胎盤と胎児のへそとの間をつなぎ,胎盤を介して母体から受けた酸素,栄養物を胎児に運び,胎児から出た炭酸ガス,老廃物を胎盤を通じて母体へ運ぶ重要な唯一の血管を包含している。成熟児の臍帯は長さ50~60cm,直径1cmの索状物で羊水中に浮かぶ。臍帯には6~7回の捻転が認められ,左捻転が多い。臍帯の表面は,胎児の表面の延長である羊膜によって鞘状に包まれる。臍帯の基質は膠(こう)様の水分に富んだ結合組織のワルトン膠様質からなり,その中に2本の臍動脈と1本の臍静脈がある。臍動脈は胎児の下腹動脈の延長で,胎児の静脈血を胎盤に導く。臍静脈は胎盤からの動脈血を胎児のアランティウス静脈管および門脈を通じて下大静脈に注ぐ。臍帯血管の循環が障害(圧迫,捻転,結節など)されると,臍帯雑音を起こし胎児心拍の変動性一過性徐脈を起こす。臍帯は胎盤の中央・側方または辺縁に付着するが,まれには卵膜に付着する。また,臍帯が結ばれるのを真結節,膠質または血管の捻転により一見結節状に肥厚しているものを偽結節という。なお,爬虫類,鳥類でも,胚と卵黄囊やその他の胚体外部との接続部分を臍帯と呼ぶ。
→臍
執筆者:鈴村 正勝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
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出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…胎盤,羊水とともに哺乳類における胎児付属物の一つで,胎盤と胎児のへそとの間をつなぎ,胎盤を介して母体から受けた酸素,栄養物を胎児に運び,胎児から出た炭酸ガス,老廃物を胎盤を通じて母体へ運ぶ重要な唯一の血管を包含している。成熟児の臍帯は長さ50~60cm,直径1cmの索状物で羊水中に浮かぶ。臍帯には6~7回の捻転が認められ,左捻転が多い。…
…頭頸(とうけい)部と上肢は大動脈弓からの枝が供給する。大動脈の枝の内腸骨動脈から出る1対の臍(さい)動脈は,臍帯を経て胎盤に至り,ここで母体の血液との間に物質交換が行われる。多量の酸素と養分を含んだ動脈血は,1本の臍静脈に集められ,臍帯を経て体内に入り,肝門で2枝に分かれる。…
…胎盤は正期産では重量450g,径15~20cm,表面積300cm2,厚さ2cmで,卵膜に覆われた胎児面と子宮壁に付着した母体面との間に絨毛群がある。胎児付属物としては胎盤のほかに臍帯(さいたい),卵膜,羊水などがある。臍帯には2本の臍動脈と1本の臍静脈が膠質(こうしつ)に包まれて存在し,長さ50cm,径1.5cmである。…
…ヒトの場合は受精後8週までは,各胚葉からいろいろの器官の分化が終わるまでの期間なので,これまでを胎芽embryoといい,これ以後を胎児という。胎児は羊水中に浮いており,臍帯(さいたい)で胎盤とつながっている。胎盤は子宮壁につき,この中には胎児側から臍帯を通じて血管が入り込み,胎児はここでガス交換(呼吸)や物質交換を行って発育していく。…
…臍帯(さいたい)(俗にいう〈へその緒〉)が胎児に付着していた部分,すなわち臍輪の跡。臍帯は臍輪によって輪ゴムのようにとりまかれているが,生後日がたつにつれて,その締めつけが強くなり,臍帯の中を走る臍動静脈も閉塞し,結合組織化して,臍帯が脱落する。…
…臍帯(さいたい)の俗称。母体と胎児をつなぐものであり,これの扱いをめぐってはさまざまな習俗がみられる。…
※「臍帯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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