内科学 第10版 「腎性糖尿」の解説
腎性糖尿(近位尿細管疾患)
概念
腎性糖尿とは,近位尿細管の機能障害により,血糖値が正常域にもかかわらずグルコース(ブドウ糖)が尿中に排泄される病態をいう.
病態生理
狭義の腎性糖尿では,腎尿細管におけるグルコース再吸収機構のみが障害され,腎に局在するNa-d-glucose cotransporter(SGLT)2の遺伝子変異による障害と考えられている.常染色体劣性遺伝を示す.広義の腎性糖尿には,先天性グルコース-ガラクトース吸収不全症,Fanconi症候群,腎糸球体疾患などの腎性糖尿をきたす疾患が含まれる.血中のグルコースは糸球体基底膜から完全に濾過されるが,そのほとんどが近位尿細管で,残りが集合管で再吸収されるため尿中には出現しない.腎性糖尿は,近位尿細管におけるグルコース再吸収機構の障害に起因すると考えられている.
臨床症状
狭義の腎性糖尿では,一般に無症状である.長時間の飢餓によって低血糖やケトーシスを呈し得るが,腎や他臓器の機能障害は呈さない.
診断
糖尿病との鑑別が最も重要で,糖負荷試験(OGTT)で血糖値が正常範囲内にもかかわらず尿糖陽性となることより診断される.近位尿細管からのグルコースの再吸収をみる指標として,TmG(maximal tubular reabsorption of glucose:グルコース尿細管再吸収極量)があり,腎性糖尿の病型診断に用いられる.ほかの近位尿細管障害を伴っているかどうか(Fanconi症候群)を鑑別する必要もある.腎性糖尿以外に腸管での糖吸収障害と下痢がある場合は,グルコース-ガラクトース吸収不全症(SGLT1の異常)も考慮しなければならない.
治療
狭義の腎性糖尿では,特に治療を要さない.[寺田典生]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報