腎性尿崩症(読み)ジンセイニョウホウショウ

デジタル大辞泉 「腎性尿崩症」の意味・読み・例文・類語

じんせい‐にょうほうしょう〔‐ネウホウシヤウ〕【腎性尿崩症】

尿崩症病態一つ腎臓抗利尿ホルモンに反応しなくなり、多量の薄い尿が出る。先天性のものと薬剤使用によって起こるものがある。NDI(nephrogenic diabetes insipidus)。→中枢性尿崩症

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内科学 第10版 「腎性尿崩症」の解説

腎性尿崩症(遠位尿細管疾患)

(1)腎性尿崩症(nephrogenic diabetes insipidus)
概念
 腎性尿崩症は,腎が原因となって尿濃縮力の低下をきたす疾患である.下垂体後葉から分泌されるバソプレシンAVP)に対する反応性が消失した状態である.腎性尿崩症は,後天性と遺伝性に分けられる.後天性の腎性尿崩症は,リチウムなどの薬剤による副作用,高カルシウム血症や低カリウム血症などの電解質異常,腎孟腎炎,多発性骨髄腫および閉塞性尿路疾患などが原因となる.遺伝性の腎性尿崩症は,集合管におけるAVP受容体(AVPR2)や水チャネル(AQP2)の遺伝子異常による腎髄質部の浸透圧勾配形成障害が原因となる.集合尿細管でのAVP作用機序を図示(図11-9-1)する.
病態生理
ⅰ)遺伝性腎性尿崩症
 遺伝性腎性尿崩症の約90%はAVP受容体遺伝子AVPR2の遺伝子変異であり,男性の100万に4人程度の発症率で,X連鎖性である.残りの10%はAVP感受性水チャネルAQP2遺伝子の異常により発症し,常染色体性劣性あるいは優性遺伝形式をとる.AVPR2はアミノ酸371残基からなる分子量40.5kDaの蛋白であり,主細胞側底膜に存在する.女性はキャリアとなるが,その約1%で腎性尿崩症が発症する.AQP2は尿管側の管腔膜とその直下の細胞内小胞膜上に存在する.これらの遺伝性腎性尿崩症では,いずれも最終的に集合管管腔側細胞膜への水チャネルAQP2の発現が障害されて尿濃縮力の低下を起こす.
 ⅱ)後天性腎性尿崩症
 薬剤性のものとしては,躁うつ病の治療に用いられるリチウムによるが腎性尿崩症が最も多い.腎尿細管におけるカルシウム受容体を介すると考えられる高カルシウム血症による症例や,低カリウム血症による尿濃縮障害など,電解質異常を原因とする場合もある.頻度は低いが,サルコイドーシスなどの全身疾患でも発症することがある.腎髄質部の器質的障害は,腎性尿崩症を引き起こしやすい.
臨床症状
 多量の低張尿を排泄し,常に口渇を訴え,多飲を示す.高浸透圧血症・高ナトリウム血症になりやすい.遺伝性腎性尿崩症では,出生前から羊水過多で発症することがある.新生児期では母乳栄養の場合には,多飲多尿が見過ごされやすく,易刺激性・発熱嘔吐・哺乳力低下・便秘・体重増加不良などの全身所見から疑われる.遺伝性の場合,水投与が不十分な際には知能発育障害が起こる.多量の尿量のため,水腎症になりやすい.薬物による続発性のものでは,原因薬剤の中止により症状は改善するが,改善には長期間を要することが多い.
診断
 1歳以下で原因不明の発熱や発育不良などを呈した場合は,遺伝性腎性尿崩症を鑑別診断に加える必要がある.遺伝性の場合は,家族歴を検討し,X染色体劣性遺伝であればAVPR2異常を疑い,常染色体劣性および優性遺伝であればAQP2遺伝子異常を疑うが,散発例もあるため遺伝子検索が必要である.典型的腎性尿崩症では,多量の低張尿(50~100 mOsm),高浸透圧血症・高ナトリウム血症,血液AVP高値により,診断は容易である.多量の低張尿を示し,鑑別が必要なものとしては中枢性尿崩症,心因性多飲症があるが,上記の項目を調べれば,だいたいの鑑別は可能である.診断を確かなものにするために水制限試験が行われる.5~6時間飲水を止め,その間経時的に体重,尿量,尿・血液浸透圧,血液AVPを測定する.体重に注意し,3%以上減少したら中止する.合成バソプレシンである合成AVP(DDAVP)を投与して反応をみることも行われる.腎性尿崩症では飲水制限にもかかわらず,低張尿が持続し,血液AVPは高値であり,DDAVPにも反応できない.
治療
 塩分制限と水分補給が治療の基本である.続発性のものでは原因の同定とその治療を行う.先天性では水腎症の予防のため尿量減少をはかる.食事の食塩制限とサイアザイド利尿薬が基本であり,プロスタグランジン阻害薬(インドメタシン)も副作用が問題ではあるが,経験上有効である.塩分制限に加えて,サイアザイド系利尿薬ヒドロクロロチアジドを併用することで,近位尿細管での水電解質の再吸収を促進し,集合管への水電解質の負荷を軽減することが期待できる.これらの治療を行っても効果が不十分な場合には,プロスタグランジン合成阻害薬としてインドメタシンを併用する場合もある.予後は,遺伝性の場合,水分を適切に与えることにより,症状もなく正常に発育するが,水腎症の併発に注意する.水投与が不十分な場合は,知能発育障害が起こる.薬剤による腎性尿崩症では,原因薬剤の中止により症状は改善するが,長期間を要する.[寺田典生]
■文献
Barratt J, Harris K, et al: Tubular disease. In: Oxford Desk Reference Nephrology, pp199-224, Oxford University Press, New York, 2009.
Bonnardeaux A, Bichet DG: Inherited disorders of the renal tubules. In: The Kidney, 8th ed (Brenner BM ed), pp1390-1427, Saunders, Philadelphia, 2008.
Plmer BF, Dubose TD: Disorders of potassium metabolism. In: Renal and Electrolyte Disorders. 7th ed (Schrier RW ed), pp137-165, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2010.

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家庭医学館 「腎性尿崩症」の解説

じんせいにょうほうしょう【腎性尿崩症】

 腎性尿崩症ではうすい尿が大量に出ますが、中枢性尿崩症(ちゅうすうせいにょうほうしょう)(抗利尿ホルモンの合成・分泌(ぶんぴつ)障害によっておこる尿崩症)および心因性多飲症(しんいんせいたいんしょう)(心に問題があって大量の水を飲む結果、多尿になる病気)と見分けることが必要です。
 これには、水制限試験とピトレシン(バソプレシン製剤=抗利尿ホルモン)負荷試験が有効です。水分の摂取を制限すると、腎性尿崩症や中枢性尿崩症では尿が濃縮されることはありませんが、心因性多飲症では尿が濃縮されます。ピトレシン試験を行なうと、中枢性尿崩症では、抗利尿ホルモンに反応して尿が濃縮されますが、腎性尿崩症では尿の濃縮はおこりません。
 腎性尿崩症の場合には、利尿薬を用いてナトリウムおよび塩素イオンの再吸収を阻害することで尿量を減少させ、飲水量を減らして症状を改善します。

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栄養・生化学辞典 「腎性尿崩症」の解説

腎性尿崩症

 腎原性尿崩症ともいう.多くは下垂体から分泌される抗利尿ホルモンに対して,腎臓の尿細管が十分反応しないために起こる比重の小さい淡い尿を多量に排泄する症状.脱水,口渇を併発する.X染色体連鎖遺伝の一つ.

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世界大百科事典(旧版)内の腎性尿崩症の言及

【尿崩症】より

…治療には,バソプレシンの誘導体(DDAVP)の点鼻薬が使われることが多い。これに対して,バソプレシンの分泌は正常であるにもかかわらず,腎臓がバソプレシンに反応しないために多尿となる場合は,腎性尿崩症と呼び,区別される。多尿を伴う病気としては,ほかに神経性多飲症がある。…

※「腎性尿崩症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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