内科学 第10版 「Liddle症候群」の解説
Liddle症候群(遠位尿細管疾患)
概念
1963年にLiddleらによってはじめて報告された体液量過剰による高血圧と低カリウム血症および代謝性アルカローシスを主体とするが,レニン-アルドステロン系は抑制されている先天性症候群である.多くは常染色体優性遺伝を呈し,アミロライド感受性の上皮性Naチャネル(ENaC)遺伝子異常により,発症することが明らかとなった.一般には常染色体優性遺伝形式をとるまれな疾患と考えられるが,孤発例の報告もある.
病態生理
アミロライド感受性の上皮性Naチャネル(ENaC)遺伝子は1993年にクローニングされ,これはENaCのαサブユニット(698アミノ酸)で,N末端とC末端が細胞内に存在する膜2回貫通型蛋白であった.αサブユニットは,後に発見されたβサブユニット,γサブユニットとヘテロオリゴマーを形成すると,Naチャネルとして最もよく機能することが判明した.腎ではENaCは遠位曲尿細管と集合管の管腔側膜に分布しており,Na再吸収に関与している.ENaCはエクソサイトーシスによって管腔側膜上に動員されて一定時間とどまった後,エンドサイトーシスによって管腔側膜から除去されると考えられている.Liddle症候群では,変異ENaCのエンドサイトーシスが障害されて管腔側膜に長くとどまるため,膜上のENaCの数が増加し,その結果Na再吸収が亢進する.Naが再吸収されると管腔内電位が負となり,電気的勾配に従ってKがROMKによって管腔に分泌される.したがってLiddle症候群ではK分泌亢進によって低カリウム血症となる.Liddle症候群ではNaの集合管での再吸収が亢進しているため,常に体液量が過剰の状態となり高血圧を呈する.過剰な体液を圧利尿により是正するため,高血圧が持続する.
臨床症状
典型的には,若年(10歳代)で発症の比較的重症の高血圧症患者で,低カリウム血症,代謝性アルカローシス,低レニン活性などの原発性アルドステロン症に類似した症状を示すが,低アルドステロン症である偽性アルドステロン症患者で本症を疑う.浮腫はほとんどみられない.高血圧,低カリウム血症による頭痛,手足のしびれ,筋力低下,多飲,多尿などがみられる.トリアムテレン,アミロライドで症状は改善するが,抗アルドステロン薬のスピロノラクトンには反応しない.
診断
上記の特徴的症状より,疾患の存在を知っていれば診断は容易である.典型例では,低カリウム血症,代謝性アルカローシスを呈する.血清レニン活性とアルドステロン濃度は低値である.表現型が多彩なので,注意を要する.ステロイド様物質(甘草など)の摂取は似た症状を示すが,スピロノラクトンで軽快傾向を示す点で鑑別できる.最近遺伝子診断が可能になってきている.
治療
ENaCの活性亢進に伴う過剰なNa再吸収が病因であるため,食塩の摂取制限を行う.薬物療法の主体はトリアムテレンであるが,降圧効果が不十分であれば,サイアザイド系利尿薬やカルシウム拮抗薬などのほかの降圧薬を併用する.高血圧のコントロールが予後を決めるうえで大切である.[寺田典生]
■文献
Barratt J, Harris K, et al: Tubular disease. In: Oxford Desk Reference Nephrology, pp199-224, Oxford University Press, New York, 2009.
Bonnardeaux A, Bichet DG: Inherited disorders of the renal tubules. In: The Kidney, 8th ed (Brenner BM ed), pp1390-1427, Saunders, Philadelphia, 2008.
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報